四大工業地帯として栄えた北九州市。近年は不足する人材、高齢化する職人、勢力を増す海外企業──。かつて繁栄を極めた北九州の産業は岐路に立っている。希望は、志のある若い力だ。
【写真】足のニオイを感知?ネクストテクノロジーを一躍有名にしたはなちゃん
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北九州市小倉南区志井(しい)。緩やかな坂道を上ると見えてくる北九州工業高等専門学校のなかに、小さなベンチャー企業がある。校内研究実験棟の1階、廊下を進んで一番奥にある滝本研究室。ここが、ネクストテクノロジーのオフィスだ。全国的にも珍しい、高専発の学内に拠点を置くベンチャー企業として、教員である滝本隆(37)が12年に起業した。現在、滝本を含む4人のメンバーを中心にさまざまな研究・開発をおこなっている。卒業生で社員の辻貴美花(21)は、「やってみたいを形にします、というコンセプトを掲げている。依頼はどんなものであれ基本的に断ることはない」と話す。高専の校内に拠点を置くことで、通常であればビジネスとして成り立ちにくい小さな案件を学生にチャレンジさせることができるため、他の企業では開発を受け付けていないような依頼も受注できるという仕組みだ。
「社会とつながる場所を学生にも与えたい」(滝本)と事業を立ち上げたことで、学生にとっての学びの場としてはもちろん、一般市民の小さな依頼にも対応する柔軟性ある企業となった。現在はロボットやドローンなどをさまざまな用途向けに開発したり、小学生向けの製作キットを手がけたりと大小さまざまな案件を抱えている。
特に同社の名前を世間に広めた開発製品が、イヌ型のにおい計測ロボット・はなちゃんだ。足のにおいを嗅ぎ、強いにおいを検知するとパタンと倒れるという、見た目もかわいらしくユニークなロボットで、現在は自社製品として販売している。開発のきっかけは一般市民からの相談だったという。
「子どもに足がくさいと言われ、においを確かめるための機械を開発してほしいという依頼でした。計測したにおいが数値で出るとショックを受けそうだから面白くかわいく伝えるようなロボットがいいという要望だったため、イヌ型にするなど工夫した」と辻が話す。現在では、においを検知すると片足をあげてお尻から消臭剤を噴霧する新型も完成するなど同社を代表する開発事例となった。このロボットが話題となり、国内はもとよりCBSやAFP通信など数々の海外メディアで紹介されたことで、知名度が上昇。メディアで同社のことを知った個人からの開発依頼も増えているという。