「自分が自己開示をすると、相手も同じ程度の自己開示をし返してくれます。つまり、お互いの心の縄張りの内側に入って話をすることになるのです。これが、人と人とのつながりを高めます。仕事上の付き合いでは相手の懐に入って話をすることは難しいですが、飲み会ではそれができるのです」

 行動分析に基づく心理研究などを専門とするデジタルハリウッド大学の匠英一教授は、この自己開示がもたらすもう一つの効果を指摘する。

「ビジネスの場で話されるのは、基本的には“タテマエ”です。タテマエだけの会話を続けていると、人は『自分が信頼されている』という感覚を得られず、孤独を感じます」

 職場では、周囲に人はたくさんいるし、会話もしている。自分が周囲から否定されているわけでもなく、物理的にはひとりぼっちではないのに、どこか満たされない気持ちになる。そんな経験はないだろうか。

 この孤独感は自分のなかでも理解しづらく、人にも説明できない。大きな組織などで薄いつながりの人が増えれば増えるほど強まるこの感覚を、匠教授は「都会のなかでの孤独感」と呼ぶ。その解消に、飲み会が効くというのだ。

「飲み会で自己開示をして相手に受け止めてもらえたり、相手から自己開示を受けたりすると、『自分が信頼されている』と感じられます。本音で話すことで、孤独感が解消されるのです」(匠教授)

 飲み会でしか得られない、孤独感の解消。編集部ではこれを、「一人じゃない効果」と名付けた。(編集部・川口穣)

AERA 2018年12月3日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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