国際貢献を目的に1993年に始まった実習制度だが、現状は低賃金で働く単純労働者集めの目的が色濃い。制度の運営支援を行う国際研修協力機構(JITCO)の調べでは、1年目の技能実習生の時間給は「714~800円」が全体の5割を占め、901円以上は10%に満たない(17年5月時点)。野党は調査結果の全容の公表を求めたが、山下法相は「失踪を誘発する」と慎重な姿勢を見せた。

「現場の感覚からすれば、失踪の理由は来日前に支払う手数料だ。技能実習制度は、貧困ビジネス化している」

 ベトナムから実習生を受け入れる、首都圏の「監理団体」の男性幹部は、匿名を条件にそう語る。最大の問題は、前出のAさんも返済に苦しんだ多額の手数料だという。

「例えばベトナムの送り出し機関が実習生から徴収できる手数料の上限は国で3600ドルと定められているが、守っているところは皆無。1万ドル以上取るところまである」(幹部)

 法外な手数料の背景を理解するため、まず技能実習生受け入れの流れを簡単に説明したい。

 技能実習生全体の96.6%(17年末)を占めるのが、「団体監理型」という方式だ。国内の「監理団体」が、海外の「送り出し機関」と契約して実習生を受け入れる。監理団体は許可制で、商工会議所や農業協同組合などの非営利団体だ。実際に実習生を集めるのは送り出し機関で、実習生を受け入れたい企業などは監理団体を通して、監理団体が募集した労働者と雇用契約を結ぶことになる。

 実習生は、この送り出し機関に手数料を支払うことになる。実習生として日本を目指すのは、ベトナムでも貧しい地域の高校卒業生らが中心だ。家族や親戚の資金で足りない分は銀行から借りて準備するが、すべて借金という例も珍しくない。

「ベトナムの実習生は最低賃金レベルの給料でも月6万円くらいは貯金する。1年で手数料の借金を完済し、残り2年は貯金して、年金の脱退一時金と合わせ200万円ぐらいは国に持って帰りたいというのが実習生の思い。1年経っても借金を返済できないと失踪のリスクが高まる。手数料としては6千ドル前後が限界だろう」(同)

 手数料はなぜ高額になるのか。記者の問いに男性幹部は1枚の書類を差し出した。ベトナムの送り出し機関が、日本の監理団体や企業向けの営業メールに添付した文書だという。文書には自社を使った場合のメリットが書かれている。例えば実習生が逃げた場合、1年目なら25万円、2年目なら20万円、3年目なら15万円を保証するとある。

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