東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン代表。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数
東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン代表。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数
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「希望の党」の結党会見で、ポーズを取る小池百合子代表(中央)。左は細野豪志衆院議員。右は若狭勝衆院議員=2017年9月、東京都新宿区 (c)朝日新聞社
「希望の党」の結党会見で、ポーズを取る小池百合子代表(中央)。左は細野豪志衆院議員。右は若狭勝衆院議員=2017年9月、東京都新宿区 (c)朝日新聞社

 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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 1年前の10月22日、衆院選が実施された。民進党が事実上解党し、自民党が大勝したあの衆院選である。

 公示前、マスコミは小池百合子都知事の国政進出に熱狂的な期待を寄せ、彼女が結成した希望の党はあれよあれよというまに20年近い歴史をもつ巨大野党を事実上の解党に追い込んでしまった。ところが小池知事の人気はわずか数日後に急落、希望の党は惨敗し、野党勢力はずたずたに引き裂かれた。選挙戦後半で話題を集めたのは立憲民主党だったが、そちらもこの1年で支持率は17%から5%へ急落、政権交代はもはや話題にもならない。数年前の野党共闘や国会前抗議の熱狂が嘘のようだ。否、それ以前に、わずか1年前に選挙があったことすら、どれほどのひとが覚えているだろうか。

 なぜこんなことになってしまったのか。それはひとことで言えば、有権者が忘れっぽく、政治を一過性の祭りとしか捉えていないからである。そしてマスコミも野党も、その性質を煽(あお)り利用することしか考えていないからである。安倍首相は昨年の解散を「国難突破解散」と称したが、実際には党利党略のためであることは明らかで、600億円超の国税を投じる大義はまったくなかった。本来は野党はそんな国政の私物化こそ批判し、祭りに騙される有権者の目を覚まさなければならなかったはずである。しかし実際には祭りこそチャンスだと飛びつき、見事にしっぺ返しを食らうことになった。

 ネット時代に入り、リベラルは積極的にポピュリズムに近づくようになった。SNSを活用し、デモをオシャレにし、ワイドショーに出演すれば、反権力の声が結集できると信じるようになった。それは短期戦略としてはいいかもしれない。けれども祭りには金がかかる。そして金はつねに権力に集まる。だから祭り=ポピュリズムで正面からぶつかれば、長期的には権力が勝つに決まっている。

 むしろいま野党に必要なのは、賢(さか)しらな広告戦略などではなく、有権者を祭りから引き離す理性の力なのではないか。青臭い理想論に聞こえるかもしれないが、いまはその原点に戻ることこそ野党再生の道だと信じている。

AERA 2018年11月5日号