政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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ニューヨークで開催された国連総会に合わせて韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領と会談した米国のトランプ大統領は、2回目となる米朝首脳会談を「そう遠くない将来に実現する」と表明しました。ここに至るプロセスとして注目したいのは、先だって行われた第4回南北首脳会談です。
画期的だったのは、共同宣言よりも南北の国防相が署名した合意書の方です。これは実質的には不可侵条約に近いもので、朝鮮半島の陸海空に関し、一定の範囲において軍事行動がとれないようにする緩衝地帯を設定しました。つまり、万が一米朝関係が決裂しても、米軍の一方的な軍事行動を事実上抑制する安全装置を作ったということです。一方で、在韓米軍をそのまま駐留させることについては、南北とも合意ができているようです。
非公式ですが金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が2021年1月までに、つまりトランプ政権の任期期間中に非核化を成し遂げたいと明言した際に、米国側はすぐに反応しました。南北が一体となって、米国の戦略的決断への外堀を埋めようとする連携プレーが一定の効果を発揮しつつあるとみるべきでしょう。だからといって制裁措置が解除されるわけではなく、その点では日米韓の間には齟齬はないはずです。
それでも南北首脳会談での合意で「南北は一体だ」とアピールしたことになりました。だからこそ、文氏と金氏は中朝間で対立のある白頭山(ペクトゥサン)に登ったのです。白頭山は朝鮮半島の人々にとって霊山です。一方で中国も、かつては自国史の一部であったと主張しています。北朝鮮にとって韓国の大統領がその白頭山に登ったということは、北朝鮮の建国神話を追認したという意味合いがあります。そして韓国側からすると、南北の一体化をアピールすると同時に、中国への牽制という意味もあるはずです。
11月の中間選挙の前になるのか、それとも後になるのか。その時期はまだ流動的ですが、米朝首脳会談が開催され、非核化と「相応の措置」を通じた米朝の新たな関係樹立への道筋が見えてくるかもしれません。すべては、米朝のさらなる関係改善にかかっているのです。
※AERA 2018年10月8日号