「働き方改革」の名のもとに様々な施策が行われている昨今。新しい働き方というと、ベンチャーなど若手の多い会社で実践されている印象があるが、実は老舗企業でも、社員の幸福度が高い例はある。
高齢化社会における幸せ経営のヒントが詰まっているのが専用工作機械メーカーの西島だ。同社には定年がない。自分から「引退したい」と言わない限り働き続けることができる。親子ほど年の離れた同僚は一般的だが、ここでは60歳も年の離れた社員が一緒に働く。140人の従業員のうち24人が60歳以上だ。
西島では60歳以上であっても週5日、午前8時から午後5時までのフルタイム勤務だ。週2、3日などの勤務を認めていないのは、刻一刻変わる現場作業についていけなくなるから。若者もベテランも同一のフェアな環境で、社員は生涯をかけて技術を磨いていく。
1924年の創業時から定年を設けていなかったが、積極的に「定年なし」とうたうようになったのは95 年頃。バブル崩壊で仕事が激減した時期に、渥美半島の名産「電照菊」の出荷作業の自動化を相談された。太さの違う茎を傷めずにつかんで選別し、箱詰めする技術は、鉄やアルミとは違う難しさがあったが、その難局を打破したのがベテラン技術者だった。
最年長社員は84歳の兵藤勝哉さん。16歳で入社し勤続66年。工作機械の心臓部である主軸組み立てのスペシャリストだ。
「モノづくりがやりたくて入社して、ここまで働き続けられて本当に幸せなことだと思います」
自分がかかわった部品が使われた車を見ると、誇らしくなる。
兵藤さんはこの夏、西島豊社長(39)に今年いっぱいで引退することを伝えた。
「体力も能力も衰えてきたのを感じます。この仕事が大好きだからこそ、引退を決めました」
同社は経営理念にある「一生元気 一生現役」で働き続けてもらうため、健康診断の項目を増やし、昼食は社員食堂で減塩メニューを提供。食堂で働くのも84歳の社員、安形朝子さんだ。敷地内にある畑で取れた野菜を使った手作りの味噌汁や漬物が好評だ。西島社長は言う。
「自分が必要とされ、働き続けたいという前向きな思いを持つ大先輩の背中から、私たちが得るものはとても大きい」