日本銀行が超低金利政策を続けて5年超。副作用が「時限爆弾」のように膨らみ、軌道修正を図ったと受け止められた。アベノミクスの先行きに暗雲が漂う。
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国債を取引する債券市場で8月1日午後。住宅ローンの指標にもなる長期金利が上昇して0.120%をつけ、翌日は0.145%まで駆け上がった。1年半ぶりの高水準だ。7月31日午後に一時0.045%まで急降下してから一気に反転した値動きの荒さは、市場の「戸惑い」の深さを映している。
すこし前まで寝たように静まっていた市場をたたき起こしたのは、日本銀行が金融政策を“微修正”させたことだ。
投資家の間で、日銀が金利を低く抑える金融緩和が弱まったり「出口」に近づいたりするとの予想が広まると、国債は売られ、価格が下がって金利が上がりやすくなる。逆に緩和が強まったり長びいたりすると予想されれば、国債は買われ、金利が下がりやすくなるのが定石だ。
日銀は7月末の金融政策決定会合で、「ゼロ%程度」に誘導する長期金利の振れ幅を広げると決定した。従来の「プラスマイナス0.1%」を「プラマイ0.2%」に。金利の上昇も容認する形で、正常化に向けた「一歩」とみる向きもある。これだけなら金利は上昇一辺倒だ。
ところが、公表文のタイトルは〈枠組み強化〉。そこに〈当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する〉との記述も加わった。金利の急騰を抑えるための「牽制」ではあるが、プロの債券ディーラーでさえ、言葉の真意や政策の方向性をつかみあぐねて迷ったのだ。
「早期に出口に向かうとか、金利が引き上げられるのではないかという一部の観測を完全に否定できる」
日銀の黒田東彦総裁は会合後の記者会見で勇ましく語った。
しかし、会合の翌日以降も金利の上昇圧力が続くのは、黒田総裁の発言を額面通りには受け止められない、と感じる市場参加者が少なくないからだ。自業自得としか言いようがない。