帰り。満足感を身体にたたえつつ車に乗り込む、そしてまたフェリーの蓋が閉じられた。「島よ、そしてフェスよ、ありがとう……」
フェリーの出発を待ちながら、運転手のO、そして妻と話をしていた。「結局最後までヘルメット被ってる人は見なかったな」なんて感じに。すると目の端に鋭い光が移動するのが見えた。
「ん?」
フェリーの蓋の間から、その光が素早く移動していく。目が焼けるぐらいの強い光だ。
「何だ! あの光は!?」
思わず声に出してしまう。UFOとはこんなタイミングで見るものなのかと思ったのだし、あるいは、太陽がすごいスピードで動きだしたとも。「地球が終わる時ってこんなに穏やかなのか……」
「フェリーが動いてんだよ、パパ」
妻に冷静に言われてようやく気がついた。動いていたのは我々のほう。フェリーが出航してたのを気づかずにいただけだった。
地動説まで揺るがしかねない神秘体験だと思ったのに。
家族はひとしきり私の天然ボケを笑った。私も合わせて笑った。しかしこれはきっと“ギターの時点”から決まっていたことだと。つまり全てはこの島が引き寄せた「神秘体験」だったのだ。誰がなんと言おうと。
決して老いとかではない。
※AERA 2018年8月6日号