

メディアの「自由化」が進めば、社会はよりよくなるのか。ネット上では、テレビなどの放送に比べて自由な表現が許されているが、その一方でヘイトの病巣となっている部分もある。しかしそんな野放図なネットの運用が、放送に及ぶ可能性も浮上している。
4月16日の政府の規制改革推進会議。安倍晋三首相は放送に関する規制改革にあらためて強い決意を示した。
「急速な技術革新で、放送と通信の垣根はどんどんなくなっている。環境変化をとらえた放送のあり方について方策を議論すべき時だ」
政府は、放送特有の規制を緩和することでインターネットテレビ局などの新規参入を促す考えだ。放送と通信の垣根がなくなれば、どんな事態が予想されるのか。放送制度に詳しい立教大学の砂川浩慶教授はこう警鐘を鳴らす。
「放送業界が培ってきた自律的な倫理規範が決壊し、事実の検証もなく、ヘイトスピーチや差別的表現も氾濫しているネットメディアの情報が放送に流れ込むことになります。番組の質の低下は免れません」
いい例が、東京メトロポリタンテレビジョン(MXテレビ)が3月末で放送終了した番組「ニュース女子」だ。沖縄の米軍基地反対運動を揶揄する同番組を放送したMXテレビに対し、放送倫理・番組向上機構(BPO)は、番組内容を適正にチェックせず、中核となる事実の裏付けもないとし、「重大な放送倫理違反があった」との意見を公表。BPOの放送人権委員会は、人権団体「のりこえねっと」共同代表の辛淑玉(シンスゴ)さんに対する名誉毀損の人権侵害があったと認定し、再発防止の努力をするよう勧告した。
辛さんは番組放送後、脅迫の手紙やメール、仕事のクライアントに対しての抗議などが増え、道で知らない人から罵倒されるなど嫌がらせを受け、ドイツへの移住を余儀なくされた。
砂川教授は、「ニュース女子」が問題視されたのは地上波のMXテレビで放映されたからだ、と指摘する。