60年間で登場した講師は約1500人。料理は4万点を超える。この間、ぶれずに一貫してきたものは何か。

「主役は料理」

 先の河村さんはそう説明する。長寿の秘密は番組の制作方法にもあると言う。

「『きょうの料理』は原則的に、収録後、編集をしない“一気撮り”です。これによって時間も費用も抑えることができ、量産ができました。生放送のようなライブ感も生まれます」

 収録は1日に2本、週に2日行っている。取材した放送回は朝、技術打ち合わせがあり、15時半から段取りをシミュレーションする「ドライリハーサル」、続いてカメラを回しながら本番同様に行う「カメラリハーサル」があり、17時過ぎに本番となった。

 スタジオの向かいには、番組の“中枢”とも言える場所がある。「料理準備室」だ。料理助手が下ごしらえした食材などを準備。収録中はカメラフレームの外に控え、タイミングを見てジュウジュウ音をたてた揚げものをコンロの上にセットしたり、使い終わった皿を下げたり、手順を巧みに組み立てていった。

 この日、カメラリハーサルは放送時間の24分30秒内に順調に収まったが、時間オーバーになるケースは多々ある。そこからプロデューサーやディレクター、料理助手などが知恵を結集し、秒刻みの修正を考えていく。取材時の担当ディレクターの川口淳子さん(56)は言う。

「野菜を切るシーンをやめ、あらかじめ切っておいたものに差し替えたり、試食の品数を減らすなどして、秒単位の修正を図っていきます」

 修正にかけられる時間は30分が目安。限られた時間のなかで対応していく。こうした調整がたちどころにできるのは、実は収録前の入念な準備があってこそ。「きょうの料理」はテキストと番組が両輪となって作られる。企画立案は放送の6カ月前。料理家と企画を詰め、テキスト撮影は放送の3カ月前に行う。このときテレビディレクターも立ち会うことが多い。段取りに加え、料理家の調理の速さも確認。ストップウォッチを持ち込むディレクターもいる。

 スタジオで、れんこん料理の収録を行っていた9月下旬、テキストは正月料理の撮影に入っていた。季節を先取りする食材の入手は毎回難題だ。「きょうの料理」テキスト編集長の草場道子さん(48)は言う。

「特に難しいのは、その時期にしか実らない果物です。例えば栗ですと一年中冷凍保存している専門業者があるので、そこから入手します。正月料理でいえば、食材よりも正月用の飾りの葉ものの入手が難しかった。築地の市場や全国をとにかく探し回ります」

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