トランプ米大統領と安倍晋三首相は外交と対話を排し、圧力強化一本槍で一致する。相手が屈しなければ戦争となり、多くの人命が失われる公算が大だ。
今回の総選挙で自民党は「北朝鮮への国際社会による圧力強化を主導。核・ミサイル計画の放棄を目指す」ことを公約に掲げた。安倍晋三首相は9月18日付の米ニューヨーク・タイムズへの寄稿で「外交を優先し、対話の重要性を強調するのは北朝鮮に対し効果がない」と述べ、同月20日の国連演説で、「必要なのは対話ではなく圧力だ」と強調した。安倍氏は「対話なき制裁」を進めるトランプ米大統領と「完全に一致した」ことを誇ったが、経済制裁の効果は疑わしい。
「北朝鮮は核・ミサイル開発に巨額の予算をつぎ込んでいる」
との印象があるから、その資金源を断つ経済制裁に効果があるように思われがちだが、実はその経費は意外に少ない。
河野太郎外相は8月30日の衆議院安全保障委員会で「韓国外交部との意見交換によれば、昨年実施した2度の核実験と二十数発のミサイル発射で少なくとも200億円」と述べた。
トランプ氏と安倍氏は経済制裁で北朝鮮民衆が窮乏し、政権を揺るがすことも狙っているか、と考えられる。だが、これまで多くの国に国連や地域機構、米国独自などの経済制裁が科されてきたが、民衆が「生活が苦しいのは政府のせいだ」と蜂起した例はない。むしろ「外国が我々をいじめている」と反発して団結しがちだ。
北朝鮮では多数の餓死者が出ているイメージもあるが、それは約20年も昔の話だ。農村の各戸に土地を割り当てて生産意欲を高め、約400の公認市場を設ける中国式の方法を採用し、食糧事情は相当好転したようだ。
経済制裁に効果がなく、北朝鮮のミサイル開発が続いて米本土を確実に狙えるようになれば、トランプ大統領の面目は丸つぶれだ。そうなれば軍事的圧力を強める選択肢に手が出そうだ。北朝鮮の領海、領空近くでの威嚇や偵察活動が激化すれば相手も過敏になり、武力衝突の可能性は高くなる。
米軍首脳部は「朝鮮戦争の再開は韓国、日本にも大損害を及ぼす」とみて慎重だが、もし北朝鮮が対空ミサイルなど、初弾を発射すれば、トランプ氏は「戦争を始めた」責任は免れる。航空攻撃や巡航ミサイル「トマホーク」、韓国の弾道ミサイル「玄武2型」などで北朝鮮の弾道ミサイル数百発を一挙に潰せればよいが、移動式発射機に載って、中国国境に近い山間部の無数のトンネルに隠れているミサイルの精密な位置をリアルタイムでつかむのは容易ではない。