伊藤俊幸(いとう・としゆき)/1958年生まれ。81年に防衛庁入庁。第二潜水隊司令、統合幕僚学校長などを経て、現在は金沢工業大学虎ノ門大学院教授(撮影/伊ケ崎忍)
伊藤俊幸(いとう・としゆき)/1958年生まれ。81年に防衛庁入庁。第二潜水隊司令、統合幕僚学校長などを経て、現在は金沢工業大学虎ノ門大学院教授(撮影/伊ケ崎忍)
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 核・ミサイル開発がますます加速する北朝鮮。予測困難な今後のシナリオを、元海上自衛隊呉地方総監、元海将の伊藤俊幸さんが鋭く分析した。

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 北朝鮮は実態として、「核保有国」と認めざるを得ません。9月3日の核実験は6回目。すでに保有を宣言したインドやパキスタンに肩を並べます。

 威力でみても十分大きい。日本政府は、核爆弾の爆発力を示す指標で160キロトン(TNT火薬換算)と発表しました。核分裂を使った原爆では限界を超える規模です。長崎に投下された原爆は21キロトンでした。今回は核融合技術を使ったのは間違いないでしょう。水爆の初期か、核融合を一部使って爆発力を高めたブースト型核分裂爆弾(強化原爆)だと考えます。

●原爆で目的達し水爆か

 水爆で難しいのは起爆剤の核分裂。極めて精密な機械です。北朝鮮が「初の水素爆弾実験を成功させた」と発表したのは2016年1月、4回目の核実験です。ただ思わしい結果ではなく、8カ月後の5回目で改良した起爆剤を試したとみています。

 水爆に軸足を移したのは13年2月、3回目の実験で所期の目的を達成したからでしょう。北朝鮮が「小型化、軽量化した原子爆弾を使った」と発表したとおり、短距離弾道ミサイル「スカッド」(射程300~500キロ)に搭載可能になったと米国は認識しました。

 いまでは日本全土を射程に収める中距離の「ノドン」(同1300キロ)どころか、米東海岸に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」(同1万3千キロ)に搭載可能ともされます。1年後の来年9月、北朝鮮の建国70年の記念日には火星14に搭載する水爆のめどがつくのではないでしょうか。

●電磁パルスは雷と同じ

 核技術に比べて、ミサイル技術は遅れているようです。8月29日に発射された新しい中距離の「火星12」(同4500~5千キロ)は失敗とみていい。北朝鮮から約2700キロ、北海道・襟裳岬の東の太平洋に落下しました。北朝鮮軍は約3400キロ離れたグアム周辺に撃ち込むと宣言したのに、距離が足りません。原因は飛行中にミサイルが三つに分離したことでしょう。弾頭が割れたと考えます。

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