「どうしてそこまで怒るの?」「そこまで言わなくてもいいのに」――。このところ、イライラする人や罵詈雑言を目にする機会が多いとは思いませんか? あそこでもここにもいる「感情決壊」する人々。なぜ私たちはかくも怒りに振りまわれるようになったのか。それにはちゃんと理由がありました。アエラ9月11日号では「炎上人(えんじょうびと)の感情決壊」を大特集。怒りの謎に迫ります。
こじらせた怒りは時に「呪い」へと形を変える。「呪い」なんて迷信? いや、呪い文化は現代にも深く息づいている。呪いの意外な効能とは。
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今年1月、群馬県で、釘を刺したわら人形で女性を脅した容疑で男性(52)が逮捕された。
神社で深夜、相手に見立てたわら人形に五寸釘を打ち付ける「丑の刻参り」と呼ばれる呪術は、古来伝わる最もメジャーな方法だ。冒頭の事例のように、わら人形を見せるなどして相手に加害の意思を示した場合には脅迫罪に問われるが、今日の日本では、この呪いの手順を実行しただけでは罪には問われない。対象に何か不幸が起きたとしても、因果関係に科学的な説明がつかないからだ。つまり、呪いなどというものは、効かないことになっている。
では、呪い文化は本当に衰退したのか。まずは丑の刻参りの痕跡を探そうと、京都へ向かった。
縁結びで有名な一大観光地で、修学旅行生で年中賑わう地主神社(京都市東山区)。ここにはかつて女性たちがわら人形を打ち付けた釘の跡が残る大きな杉のご神木がある。
●「白装束の女性を見た」
「現在ご存命であれば100歳前後の人から、『子どもの頃、この杉のほうに向かう白装束の女性を見かけた』という体験談を聞いたことがあります」
と話すのは同神社の中川勇権宮司。だが意外にもこんな話が続いた。
「丑の刻参りは一見おどろおどろしいようですが、実は当の女性は冷静だったのでは。カッとなって相手を刺し殺したりするのではなく、白装束を着て、ロウソクを立てた鉄輪を頭にかぶって、と手続きに従っている。当時、電灯もない山道を夜中に一人でここまで上がってくるのはとても怖かったはず。それでも女性の立場が弱く不平等だった時代には、呪術にすがるしか解決方法がなかったのでは」