地に落ちたイメージを回復させて、業績も上向かせる……。これまで、多くの企業が直面し、その実現に腐心してきた。これは、個人の場合でも同じこと。落ち込んだ底が深ければ深いほど、復活には時間がかかる。AERA 2017年7月3日号では、「どん底からの脱出」と銘打ち、見事V字回復した企業を大特集。そのとき企業は、個人は、何を考え、どう振る舞うべきなのか。当事者たちの話を聞いた。
「マクドナルドの言うことは信用できない」。一時はそんな厳しい言葉も投げかけられた。失った信用を取り戻したい。2014年7月から続く、七転八倒の日々。
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2014年7月20日、中国のテレビ局のスクープで明らかになった、上海福喜食品の期限切れ鶏肉使用問題。直後から、東京・新宿の日本マクドナルド本社では、クオリティアシュアランス部部長の小山郁(41)が情報収集に躍起になっていた。
マクドナルドでは、製造記録や検査記録など事実を確認してから対応を決めるのが通常だ。しかし、上海当局の捜査が入っていたこともあり、現地の窓口はシャットアウト。工場とは一切連絡が取れなかった。
「こんなことはないのですが」
小山は当時を振り返る。
しかし、ないはずのことが実際に起きた。
ナゲットに期限切れの鶏肉が使用されているかどうかが確認できないまま、報道が先行。問い合わせが殺到した。スクープ翌日の21日に、ナゲットを一時販売中止に。25日には全量をタイからの輸入に切り替えることを決めた。
●製造工程を動画にした
切り替えただけで消費者の不安は収まらない。次はタイ産の安全性を伝えなければ。ナショナルマーケティング部の山本美和(43)はタイの工場に連絡し、工場の担当者を説得して製造工程を撮影。「見える、マクドナルド品質」というサイト/を作り、9月12日にはこの様子を公開した。言語の壁を越えて多くのことを一度に伝えられる動画はこの後、マクドナルドのコミュニケーションツールとして定着していく。
一度不安を抱いた消費者は、牛肉は、野菜は……と連鎖して不安を抱く。そこで山本は小山の部署とも連携し、商品の原材料の何をどの国で作っているのか、情報をまとめて同じサイトでどんどん公開。チキンナゲットに関する細かい製造工程を記したパンフレットも作製し、本社スタッフ総出で店舗に出向き、顧客に配布した。
「ハンバーガーは食べるけど、ナゲットはちょっと……」
と言う顧客もいたが、直接説明すると表情の変化が見て取れた。パンフレットにつけたナゲット無料クーポンの引き換え率も悪くなかった。店舗に来てくれる顧客となら、コミュニケーションはできる。問題は、来なくなってしまった顧客だ。
そう思っていた直後の15年1月5日、異物混入問題が発覚。この対応に当たったのは、くしくもその日、新潟のフランチャイズから本社に戻ってきた下平篤雄(64)だった。カサノバがマーケティングのトップだった04年、広報部長として週に一度は顔を突き合わせ、「サラ」「シモ」と呼び合う旧知の仲。鶏肉問題発生後の14年12月、カサノバ自ら下平が所属していたフランチャイズの社長を説得し、呼び戻した。