文化庁が毎年実施している「国語に関する世論調査」(2019年度)でも、回答者の66%が「国語が乱れている」とし、そのうち61%がその理由(複数回答可)として「若者言葉」を挙げた。
そんな“嫌われもの”の若者言葉だが、見逃してはならない前提がある。それは、あくまでも仲間内の言葉である点だ。業界用語と同じで、通じる人だけに通じれば、それで役割を果たしているのである。
長年、若者言葉を含む俗語の研究をしている梅花女子大学の米川明彦名誉教授は「若者言葉は会話を楽しむためのノリの言葉」と説明する。
「若者言葉が批判されることに疑問を感じます。仲間内の言葉ですから、彼らからすれば、『なんで人の楽しみの邪魔をするんだ!』と思っているのではないでしょうか」
それを言われると……。取り上げているマスコミの立つ瀬がないが、それだけ若者言葉は魅力に富んでいるのだろう。
そんな若者言葉の特徴を米川氏はこう語る。
「現代に続く若者言葉の始まりは1970年代中ごろ。私はこれを『現代若者ことば』と呼んでいます。もちろん、その前から若者言葉は存在しました。例えば、戦前には旧制高等学校の男子学生語や、女学校の女学生ことば。時代が下った1960年代後半には、学生運動から『内ゲバ』などの言葉が生まれました。しかし現代の若者言葉はこれまでのものと性質が異なります」
その背景には、社会の変化があるという。
「一つは『まじめ』という価値を重視する考え方が崩壊したこと。これにより、日本に『楽(らく)社会』が生まれました。つまり、何かをする際に、『楽しい』か『楽』かが判断の基準になるということです。社会が豊かになり、消費・娯楽社会へと変化してきたことが影響しています。言葉はますます曖昧になり、娯楽の対象になりました」
二つ目は「価値観の多様化」だという。「多様化と言えば聞こえはいいですが、要は『ジコチューの社会』。文法上、明らかに間違っていても自分が良いと思えばそれで良いのです」
三つ目が「聞くことを忘れた社会」だという。
「相手を理解するための『聞く』という行為がなくなり、一方的に話す、つまり、『相手がわからなくてもいい』という状態。言い換えれば、互いに理解し合うことを求めない社会です」