2020年の東京五輪に向けて、新卒採用だけでなく、40代以上も含めた転職市場が活況だ。気になるのは転職後の年収のアップダウンだが、自己実現を優先しようと地方に移る人、お金に価値を置かない転職も増えている。AERA 5月22日号では「転職のリアル」を大特集。転職があたりまえになりつつある時代。それでも、会社に残る選択をした人たちがいる。
* * *
2006年1月、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったライブドアに証券取引法違反容疑で強制捜査が入った。05年にリクルートからライブドアに転職し、ニュースサイトの運営に携わっていた田端信太郎さん(41)も強制捜査の瞬間に立ち会った。
「家に帰れなくなるといううわさが流れ、社内の売店からカップ麺がなくなったことを覚えています」
●最悪クビになるだけ
会社の勢いは一気に失速、会社を去る人も続出した。田端さんにも事件後にさまざまなオファーが来たがライブドアに残り、08年からは執行役員として経営のかじ取りにも参画した。
「自分の価値は『自分が会社をどれくらい良くしたか』だと思っているので、逆風の時ほどありがたい」
チームの部下に対する人員整理役も務めた。取引先からは与信確認の電話がかかり、一時期は求人広告すらも載せられない状態に。「それでも会社に来てくれる社員がいることに、本当にありがたいなと感じて。事件後のほうが自分としては主体的にがんばったと思いますし、誰にもできない経験を積めました」と振り返る。10年には他社に移ったが、2年後にライブドアと経営統合したNHN Japan(現LINE)に戻った。
「会社が沈んでも自分の価値とは関係ないですし、『社会科見学』と考えるといい。サラリーマンはリスクを背負っても、最悪クビになるだけですから」
00年代に入り、大企業も続々リストラを敢行している。経営難に陥り16年に鴻海傘下に下ったシャープからも、多くの人材が流出した。新卒からシャープに勤務する30代女性も、経営難発覚後は思い悩んだ。