基地問題に関しては、「沖縄の問題」ではなく「日本の問題」であると、「本土」で認識が共有される日は遠のくばかりのように思われる。
一方で、「沖縄」を舞台に描きながらも、「これは沖縄だけの問題ではない」と考えさせる奥行きと力のあるノンフィクションを紹介したい。
沖縄の生活実感がにじむ『裸足で逃げる』(上間陽子著、太田出版)には、「米軍」や「基地」といった単語はほとんど出てこない。だが、後景として浮かぶのは、米軍基地が連なる沖縄本島中部の街並みである。数年前まで私も身を置いた暮らしの場だ。
「あとがき」に印象深いフレーズがある。
「彼女たちは、家族や恋人や男たちから暴力を受けて、生きのびるためにその場所から逃げようとします。オレンジ色の基地特有の光が照らす、米軍基地のフェンスによって分断された無数の街は、彼女たちが見た街です。どこからも助けはやってこない。彼女たちは裸足でそこから逃げるのです」
描かれている世界は、住民だった私の目の隅にも入り、耳をかすめてもいたはずだが、全く気に留めることはなかった。あれだけ理不尽なことが身近な場で起きていたにもかかわらず、ずっと関心のらち外に置いてきた。そのことに愕然とする。「本土」の人間が沖縄を語るとき、「見たい現実」だけを見ようとするのと同じではなかったか、と。
そして今、東京にいる私は、沖縄の戦争体験者や基地被害者の苦悩、政府に物申す人たちの声を一括りにし、「定型」として「解釈」するようになっていないか。そう自問自答せずにはいられない。(編集部・渡辺豪)
※AERAオンライン限定記事