米軍に関する主な地位協定(AERA 2017年4月17日号より)
米軍に関する主な地位協定(AERA 2017年4月17日号より)
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 悩める「世界の警察官」アメリカ。海外展開する米軍を守る地位協定の締結先は日本など100カ国超にのぼる。厳しさを増す交渉に、トランプ政権も苦悶しそうだ。

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 地位協定の交渉は住民感情もふまえ柔軟に、ただし駐留を望む国には強く出る──。米国と受け入れ国で結ぶ米軍の地位協定を検証し、こう提言した米政府内の報告書がある。国益の最大化を図る米国の本音がにじむ。

 報告書は、米政府のスローコム元国防次官を長とする諮問委員会が米国務省(日本の外務省に相当)の求めで2015年に作成。政府高官や軍幹部、OBらにインタビューし、「米国の地位協定交渉への挑戦と戦略」を示した。在沖縄米軍のトップだったグレグソン元国防次官補も経験をふまえて助言している。

 米国は国際平和と国益を重ね合わせ、世界中に軍を展開。今もシリアを攻撃し、北朝鮮ににらみをきかす。報告書の「挑戦」という言葉からは、駐留先で地位協定問題を抱える四苦八苦が伝わってくる。

●刑事裁判権にこだわり

 米政府は他国で活動する米軍人がなるべくその国の法律で裁かれないよう地位協定を結ぶ。米兵の行為で地元の人が命を失うなど重い事件でも、米国側で扱うことにこだわる。だが、冷戦後、民族紛争やテロとの戦いなどで、「米軍は様々な文化と価値を持つ国々へ関与を広げた」。それに伴い地位協定の内容も多様化し、イラクやアフガニスタンなど反米感情が強く交渉が難航する国も目立つ。

 さらに、日本を含む「伝統的同盟国」や「安全保障で米国の支援を真に評価する国」でさえ、「主権意識の高まりで米国への依存と服従はより困難になっている」。具体例として、米国側の独占を目指しながら、実際は大半の国と共有し調整している、米兵が起こした事件での刑事裁判権を挙げる。

 こうした難題に臨む米政府の体制は、実はかなり貧弱だ。ワシントンでは地位協定を扱う職員が少ない上に、「国務省の担当者は2、3年で代わり継続性がない。国防総省の統括責任者は10年以上不在だ」。受け入れ国では、「駐留軍は任務に集中し、大使館は様々な課題に追われ、協定の厳格な実施は困難」という有り様だ。

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