そこで報告書は、体制強化とともに「受け入れ国の状況にあわせた交渉」を提言。米政府はある国への譲歩が他国の譲歩要求を誘うことを危ぶみ、「すべての地位協定で米国の要望を最大限に実現する衝動」に陥りがちだが、それでは受け入れ国との関係はうまくいかないとして、柔軟な対応を求める。
●協定での譲歩を提言
米軍の派遣先が増え、画一的な交渉が難しくなっている実情もある。
インタビューに応じた複数の関係者からはこんな助言があったという。
「地位協定交渉で譲歩して、受け入れ国と信頼関係を築けば、米軍駐留への過度なストレスが生まれず、米国の関与政策が確実になる」
だが、やはり譲れないのが刑事裁判権だ。「大半の事案が米国の制度で解決されることを引き続き最優先に」とある。
その背景説明は生々しい。「米兵の権利擁護だけではない。米兵が不正かもしれない制度にさらされれば、米軍を海外展開させる米国の意欲と世論の支持が挫折しかねないからだ」
さらに、「受け入れ国の過敏さが冤罪(えんざい)を生む危険」を指摘。「米軍が単純な事故とみる米兵の行為で住民が命を失い、受け入れ国のメディアや世論が重過失とみる場合」があるとして、警戒を示す。02年に韓国で中学生2人が米軍装甲車にひかれ、即死した事故を思わせる記述だ。
提言では、「受け入れ国政府が米軍駐留を望む切迫した必要があるほど、交渉がやりやすくなる」と述べつつ、「その必要を、殺人事件などの犯罪による主権侵害への懸念が上回った時には問題が生じる」と注意を促す。
●世界の「お手本」日本
日本は米軍駐留を他国からの攻撃に対する抑止力とし、経費の大半を賄ってトランプ政権から「他国が見習うべきお手本」(マティス国防長官)と評された。米政府は米軍基地が集中する沖縄での米兵の犯罪に神経をとがらせるが、地位協定の改定は沖縄が求めても日本政府が求めなければ応じない。そんな本音も報告書からは見えてくる。
(朝日新聞専門記者・藤田直央)
※AERA 2017年4月17日号