アエラの連載企画「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回はエスビー食品の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■エスビー食品 営業グループ ハーブ営業部 ハーブ供給ユニット マネージャー 伊藤弘敬(51)
「頭の中は緑色。ハーブでいっぱい」
伊藤弘敬は笑いながらも真剣な目でこう語った。撮影地の「エスビーハーブセンターつくば」(茨城県常総市)は、エスビー食品と地元農家が共同運営する生鮮ハーブ生産施設の一つ。バジル、パクチー、ミントなど約20種類をハウスで栽培し、毎日、出荷している。全国に約40あるこうした生産現場と連携し、企画から品質管理、設備投資など、生産業務のすべてを12人の部下と担う。
ハーブは別名「軟弱野菜」と呼ばれるぐらい傷みやすい。品質・供給の安定が最大の課題だ。緊急時は365日問わず電話があり、判断が求められる。例えば台風。いざとなれば、ハウスのビニールをはぐ決断さえしなければならない。ハーブが全滅しても、ハウスごと吹き飛ばされるよりましだからだ。9月は記録的な日照不足に悩む日々が続いた。自然は容赦ない。
「生産責任をすべて負っているため、気の休まる時がない。一課長ではあるけれど、気持ちの上では経営者。ピンチの連続だが、ある意味、精神的にずぶとく成長していくしかない」
一人ひとりが責任者という心構えでいなければ、農家と信頼関係は築けないと後進にもアドバイスしている。
千葉県出身。信州大学農学部を卒業後、1988年に入社。カレーや練りわさびの研究開発や商品企画などに携わった。2009年、現職に就くとき、両親に「昔の夢がかなったね」と祝福され、少年時代の記憶がよみがえった。地元の畑が次々に住宅に変わり心を痛め、農業のために働きたいと思ったこと。中学から大学まで長距離ランナーとして活躍し、人々の健康を食から支えたいと思ったこと。
来年、ハーブ事業は30周年を迎える。昨今のパクチーブームも、会社として粘り強く作り続けてきたことの成果でもあると自負する。
「それでも欧米と比べ日本のハーブ文化はまだまだ。今後も市場をリードしていきたい」
芳しいハーブに包まれ、17年も強く駆けてゆく。
(文中敬称略)
(ライター・安楽由紀子 写真部・東川哲也)
※AERA 2017年1月2-9日号