『トーマの心臓』『マージナル』など、萩尾作品を上演してきた、男性だけの劇団、スタジオライフ。上演中の「エッグ・スタンド」は、戦争をテーマにしながら、胸をうつセリフにあふれた作品だ。
天井からつるされた大きな輪のオブジェに、舞台奥から客席に向けて斜めになった床。シンプルな舞台装置の中で、少女漫画家・萩尾望都さん原作「エッグ・スタンド」が演じられる。
女性演出家・倉田淳さんが率いる男性だけの劇団スタジオライフは、これまでも『トーマの心臓』をはじめ、数々の萩尾作品を上演してきたが、『エッグ・スタンド』は初めての舞台化になる。
物語は第2次世界大戦中、ナチス占領下のパリ。ドイツから逃げてきたユダヤ系のルイーズ、レジスタンスのマルシャン、そして身寄りのない少年ラウル。偶然、出会った天涯孤独の3人は、つかのま家族のように幸せに暮らす。だがルイーズを捕らえようとするゲシュタポの手が迫り、ラウルの謎めいた行動はエスカレートしていく──。
●戦争の予感が身近に
「戦争は/人間の心の中にある欲望か何かの炎が/狂ったように/次つぎと人から人へ引火して/とめどなくもえひろがる大火事だ」
これはマルシャンがラウル少年に語りかけるセリフだ。
戦争とは何か、という問いかけが作品中を通奏低音のように流れていく。
連載中の『王妃マルゴ』でも、プロテスタントとカトリックの間の戦争が多く描かれ、殺戮(さつりく)の場面が描写される。
「戦争について、ずっと考えているんです。でも考えても考えてもわからない。たとえば私の両親が生きた時代には太平洋戦争がありました。あるとき母に『どうして戦争に反対しなかったの?』と聞いたら、ムッとされて、『知らないうちに始まってたんだから仕方ないじゃない』と言われて。確かに戦争は平和な日常と地続きで、いつの間にか始まってしまうのかもしれません」(萩尾さん、以下同)
『エッグ・スタンド』も、昨年大きな話題になった『ポーの一族』の新作「春の夢」も、1944年の物語だ。前者は冬のパリ、後者はノルマンディー上陸作戦を控えたイギリスが描かれる。