十分なケアを受けられた母親もいるが、前回の連載に書いたように、死産後に赤ちゃんが金属トレーに載せられるなど、心に深い傷を負う対応をされた母親もいる。中には希望しても赤ちゃんに会わせてもらえない人もいる。
20年前に新生児死を経験し、聖路加国際大学「天使の保護者ルカの会」でグリーフカウンセリングを担当する石井慶子さんは言う。
「院内グリーフケアは、心ある医療者が行っているのが現状です。患者の悲嘆をよく学んで充実したケアを行う病院とそうでない病院の格差は広がっており、傷つく母親は今もいます」
今回の連載で、赤ちゃんの死を経験した家族19組に話を聞いたが、皆が口にしたのは「退院後が一番つらかった」という言葉だ。産後は保健師らによる新生児訪問があるが、亡くなっていればこの訪問も受けられない。相談機関もなく、孤立する。そもそも産後はホルモンバランスが乱れ、うつになりやすい。赤ちゃんの死という大きな悲しみを抱える女性たちが、何のケアも受けられていないのが現状だ。
周囲からの「まだ若いんだから次があるよ」「泣いてばかりいたら天国の赤ちゃんが悲しむよ」といった「励まし」でますます心を閉ざしていく。親にとっては、次の子も代わりにはならない。
家族との関係が壊れてしまうこともある。都内に住む女性(45)は、心拍確認後の流産を2度経験、3度目の妊娠はおなかの子が18トリソミーとわかり、安定期に入ってすぐに後期流産(死産)した。遠方に住む実家の両親に「病気もあったし生まれてこないでよかった」と言われ、以来着信拒否にしている。
不妊治療を経て4度目の妊娠。今年2月に出産し、ようやく生きている我が子に会えたが、親には伝えていない。
「一緒に悲しんでもくれなかったし、死んだ子の供養もしてくれなかった両親に、もし今回の出産を喜ばれたら嫌悪感を抱いてしまうと思う」
●天使ママたちが集まり小さなベビー服を縫う
赤ちゃんの死を経験した夫婦にとって、「納骨」もひとつの大きな山だ。
いつまでも手元に置いておきたいと願う夫婦は多いが、親世代などは四十九日や一周忌などに納骨する「常識」を重視し、納骨を急かす場合が多い。