一方、林さんはここ何年もがんと闘っている。抗がん剤の副作用もあってペンを持つ指に力が入らず、テープで万年筆を指に固定して原稿を書き続ける姿も。カメラは食事や入浴、睡眠、林さんの日常生活に入り込む。
基本は一人、体も衰えてゆく。しかし「まだ本にできてないものが10冊分くらい」「死ぬに死ねない。書き続けることが私の生きている証し」だと語る。
朗読はダンサーにして俳優としても活躍する田中泯さん。ずしんと響いてくるような迫力のある、それでいて柔らかい語りは、まさに林さんのキャラクター、書き手としての内面の声だ。
●抗いに満ちた人生
監督・西嶋真司さん(57年福岡市生まれ)は、大学卒業後RKB毎日放送に入社、三井炭鉱の閉山を描いた「時の歪み」(98年)や「共生~朝鮮学校を知っていますか~」(2003年)など数々のドキュメンタリーを手がけてきた。
「えいだいさんとは、RKB毎日の記者としてドキュメンタリー番組を通じての付き合いです。撮影時はがんとの闘いで体もしんどい中、それでも必ず現場に出向いて、人と会い話を聞くことを欠かしませんでした。ジャーナリスト魂のすごさを感じました」「えいだいさんの文章を朗読してもらうのは田中泯さんしかいないと思い打診したところ、すぐに返事がきて引き受けてくれました。嬉しかったですね」
負の歴史に向き合うルポルタージュ。林えいだいの足跡と営みは、批判精神を忘れたメディアへ痛烈な問いを突きつける。(ライター・田沢竜次)
※AERA 2017年2月13日号