
「権力に棄てられた民、忘れられた民の姿を記録していくことが私の使命である」(林えいだい)──。がんに侵されながらも旺盛な執筆活動を続ける記録作家のドキュメンタリー映画が完成した。
ドキュメンタリー「抗い 記録作家 林えいだい」(監督・西嶋真司)が完成した。林さんは83歳の現在も旺盛に執筆、昨年秋には57冊目になる著書『実録証言 大刀洗さくら弾機事件』(新評論)を刊行した。
1945年8月9日、一人の朝鮮人特攻隊員が銃殺刑に処せられた。陸軍が命運を賭けた重爆特攻機「さくら弾機」に放火したという罪を着せられたのだ。林さんはこの青年が朝鮮人であるがゆえの冤罪ではないかとの疑念を抱き、深層に迫ろうと目撃者のもとを訪れる。徐々に歴史の闇に埋もれた真実が明らかになる過程は息をのむ。
●特高に殺された父
林さんが記録作家になった背景には、神主だった父親の存在がある。戦時下、炭鉱から逃げ出した朝鮮人鉱夫を自宅に匿ったこともあった。そのため特高警察に連行され拷問を受け、自宅に帰ってから間もなく亡くなった。林さんは「国賊」「非国民の子」と罵倒されながらも、異国の地で理不尽な扱いを受け犠牲になった人々への想いを持ち続け、それが記録作家としての原点となった。さらに大学時代に荒畑寒村の『谷中村滅亡史』を読んで感動。林さんも大学を中退、筑豊の炭鉱で働きながら生き方を模索する。
映画では林さんの道案内で、筑豊炭鉱跡の通称「アリラン峠」を歩く。そこは日本に徴用された朝鮮人たちが炭鉱に向かう時に歩いた道だ。当時の朝鮮人たちが口ずさんだ唄、死んだ朝鮮人の名前さえ刻まれていない、ただの石ころの墓石が映される。林さんの語りと映像、淡々と流れる唄から、失われた歴史の記憶が鮮やかによみがえる。
「いいたくない、いわない。表面に出ない隠れた部分こそ、問題なのだ」(『地図にないアリラン峠 強制連行の足跡をたどる旅』明石書店、94年)