


新人映画監督に贈られる日本映画製作者協会の新藤兼人賞。2016年の授賞式で、映画監督でもある俳優の津川雅彦(76)が乾杯のあいさつに立った。
「日本映画がすばらしいのは、安く作ってもいい作品ができることだ」
とほめた。一方で、こうぶちあげた。
「配給会社は利益を吸い取る。制作側がもうかるわけがない」
絶好調の日本映画だが、手放しで喜べないという関係者は多い。理由の一つが「配給会社だけがもうかる」現状だ。冒頭の式にも出席していたある映画関係者が打ち明ける。
「津川さんの指摘は正しい」
作品によって異なるが、日本では興行収入の5~6割を映画館が持っていき、あとは宣伝費に数億円、残りの3割程度が配給会社に入る。さらに残った分を製作委員会が分け合い、実際に手を動かした制作者の手元には、どんなにヒットしても最初に決めたギャラ以外入らないことが多い。
●映画作りには多様性
「誰も知らない」「そして父になる」などを生み出した映画監督の是枝裕和(54)も、こうした現状に危機感を抱く一人だ。
「ヨーロッパでは、監督が映画の著作権者になることが多い。だから権利配分が回ってくる。日本では、アイデアやソフトウェアに対するリスペクトもなければ、そこに対価を払うという発想もなく、『映画がヒットしたら成功報酬をのせてほしい』と制作者が提案しても、なかなか通らない」
日本映画を支えるアニメーション業界も、稼げているのはごく一部。日本アニメーター・演出協会(JAniCA)の15年の調査では、キャリアのスタートとなる「動画」「第二原画」といった職種の平均年収は110万円台だ。人材が定着せず、調査担当者は「予算の配分が下まで回ってこない構造が定着している。産業として成立していない」とまで言った。
制作者に金がまわらないため、作り手は資金力のある大手に限られる。
シネコンの興隆と引き換えに、独自に作品を選んで上映するいわゆる単館系の映画館も淘汰された。「誰も知らない」の配給を手掛けたシネカノンも10年に倒産。社長だった李鳳宇(リボンウ)(56)は「多様な映画文化を支えていた層の高齢化」を指摘したうえで、こう分析した。
「作り手と受け手の感性のずれが進んで経営が成り立たなくなった。また、技術的に映画が簡単に撮れるようになって日本映画の本数自体が急増し、逆にいい映画を見つけづらくなったことも大手偏重の傾向を進めた」
こうして日本の映画は数百万~数千万円で作るインディーズと、東宝をはじめとする大手配給会社が制作のみならず宣伝にも資金を大量に投下して200~300館規模で公開する大作に二極化した。
日本映画製作者連盟(映連)のデータでは、15年の日本映画で10億円以上の興収があったのは39本。邦画全体の6.7%に過ぎないが、興収の合計は898億円と全体の74.6%にも達する。上位と下位の格差が開いているのだ。