だが、約5兆円の防衛費からの大幅増、憲法解釈変更へと踏み切れるのか。日米の分担も見直しになる。極東有事では米海軍第7艦隊のため、海自のP-3Cが敵潜水艦に対応するが、そうした協力を白紙にするのか。
防衛省幹部は「中国に独力で対抗するなら防衛費は今の3倍の15兆円。社会保障費がかさむ財政難ではありえない。日米協力も今さら切り分けられない」と語る。それでも省内には、北朝鮮の弾道ミサイル対応に限るとして、「敵基地攻撃」の兵器を持つべしとの主張がくすぶる。「判断は1秒を争うのに、遠く離れた米国と脅威認識を常に共有できるとは限らない」(別の幹部)とみるからだ。
敵基地攻撃の必要性は国会でも議論されてきた。「ミサイルを防ぐ手段が他にない場合に敵国の基地をたたくことは違憲ではないが、そのための兵器はいま自衛隊にない」というのが政府の見解。稲田朋美防衛相は9月、「さまざまな角度から慎重に検討したい」と答弁した。
元海将で、米国で01年の同時多発テロ時に防衛駐在官も務めた伊藤俊幸・金沢工業大学大学院教授は、こうクギを刺す。
「自主防衛の名の下に他国領土の攻撃に踏み込むなら、国民に相応の覚悟が求められる。中東で空爆を続ける欧米はテロで報復されても、世界平和を掲げて、攻撃をやめることはない」
(朝日新聞専門記者・外交安保担当/藤田直央)
※AERA 2016年12月12日号