




ギャラリーや展覧会という“アート系”とはこれまで縁遠かった人たちを振り向かせ、人生まで変えてしまう「猫」アート。SNSでさらに求心力を増す、抗えぬ“カワイイ”の世界。
愛猫の何げない写真をSNSにアップすると、あっという間に「いいね!」が数千件。世界中の何万人もが見守る、会ったこともない名もなき猫の、イラスト、写真集──。猫はいま、とにかく大人気の“キラーコンテンツ”だ。
絵本の分野もその一つ。絵本専門誌「MOE」で、ムック「I LOVE 猫絵本」をヒットさせた白泉社の位頭久美子さんは話す。
「絵本はアートへの入り口。作品の世界観に惹かれて、大人の読者も多いんです。特に最近人気の猫絵本は、大人の女性読者が中心ですね」
猫は昔から絵本によく登場してきた。猫好きの人はインドア派が比較的多く、絵本との親和性も高いという。
「家の中に楽しみを見いだしているから、猫のグッズを手作りしたり、絵本を読んだり、猫との暮らしを自分らしく工夫している人が多い」
と位頭さん。最近の猫好きはSNSの利用頻度が高く、自分の猫の写真をアップするだけでなく、よその猫の可愛らしい姿を探して楽しむことも多い。こうした“猫探し”のネットサーフィンで偶然、猫アートの作家の猫につながり、その作品にも触れてファンが増える、というのが猫アートブームの背景のひとつらしい。
●身近な存在だからこそ
ところで、猫をモチーフにした作品を手掛ける作家とは、どんな人たちだろう。
「最近は30代、40代の女性作家が多いですね」(位頭さん)
洋の東西を問わず、昔から猫は芸術のテーマになりやすく、あまたの芸術家が扱っている。だが、この世代はSNSを使って発信するのが大きな特徴だ。フォロワーは普段見知った猫が作品に登場するのでより親しみがわきやすく、作品が誕生する背景にも触れる楽しみもある。
今年で画業20周年を迎える、どいかやさん。『チップとチョコのおつかい』や『チリとチリリ』のシリーズで人気の絵本作家だ。
夫と猫6匹とともに、15年前から千葉県の自然豊かな森の中に暮らしている。猫たちは庭を駆け回り、ときにはネズミやシジュウカラを「狩って」くることも。SNSで発信したその暮らしぶりが反響を呼び、次第に投稿に登場する猫たちも人気者になっていった。
絵本『ハーニャの庭で』(偕成社)や、エッセイ集『ちっぽけ村に、ねこ10ぴきと。』(白泉社)は、そんな暮らしの中から生まれた。
「いつかは別れなければならない、猫への思いを描いた『ポーリーちゃん ポーリーちゃん』(小学館)は、愛猫チュピの姿形を拝借しました」とどいさん。
マスメディアでは得られない動物愛護や環境問題の情報を探すつもりで始めたSNS。今では20歳になる雄猫プーを始め、いろんないきさつで迎えることになった猫たちを載せたり、人間の経済活動の犠牲になる動物を減らす活動の広報ツールにもなったりしている。
「著作権フリーのミニ絵本『ペットショップにいくまえに』は誰でも自由にダウンロードできるようにしています。趣旨に賛同したアーティストが集まって、年に1度、グループ展も開いているんですよ」(どいさん)
町田尚子さんは、自身の絵本のほか、人気作家の本の装画など多彩に活躍し、透明感のある神秘的な世界観にファンも多い。
町田さんは、最初から猫を多く描いていたわけではない。ある時、手掛けていた作品の画面が「ちょっと寂しいから猫でも」と描いてみたら……。
「どんな場面にいても自然」(町田さん)
以来、猫の出番が増えた。
「ブログを以前から書いていたんですが、愛猫の『白木』が来てから彼の写真が多くなって。ツイッターも最初は展示の告知用にと思っていたのに、いつの間にか“白木専用”に(笑)」。そしてついに、「白木」が主役の『ネコヅメのよる』(WAVE出版)が刊行された。