研修会の実技講習。視覚障がい者と伴走者の信頼関係が重要。2人をつなぐロープは“きづな”と呼ぶ (撮影/石野明子)
研修会の実技講習。視覚障がい者と伴走者の信頼関係が重要。2人をつなぐロープは“きづな”と呼ぶ (撮影/石野明子)
この記事の写真をすべて見る
競技者と伴走者は一本のロープでつながる (撮影/石野明子)
競技者と伴走者は一本のロープでつながる (撮影/石野明子)

 2016年リオ・パラリンピックでは日本人マラソン選手が躍進した。その背景には、日本盲人マラソン協会による地道な活動があった。視覚障がい者と伴走者の研修会を取材した。

 毎年9月、日本盲人マラソン協会は、視覚障がい者へのマラソン普及と、伴走者(ガイドランナー)養成を目的とした研修会を静岡県の掛川で行っている。

 盲導犬と一緒に参加した高澤節子さんは、今年が2回目の参加。2000年に全盲となってからマラソンを始めたという彼女の足首はカモシカのように引き締まり、一目見ただけで日々の努力がうかがえた。年に2度のマラソン大会出場が、65歳になる彼女の生き甲斐だという。

「ここではいろいろな方と出会えて元気がもらえます。マラソンをやる時は、さすがに盲導犬と一緒に走ることはできません。東京に住んでいる私は普段、東京体育館に盲導犬を預け、伴走者の方と一周5キロの皇居を4周から5周は走っています」

 サブスリー(42.195キロを3時間以内に走ること)は、多くのランナーにとっての憧れだが、全盲のハンディがありながらそれを達成しているのが八木陽平さん(52)だ。競技歴25年のベテランランナーである。

「20年前にサブスリーを達成していたらパラリンピックも狙えたかもしれませんね(笑)。盲人マラソンはすごい勢いでレベルが高まってきています」

「ヤマハリゾートつま恋」で行われる研修会は、同じような視覚障がいを背負い、マラソンという同じ趣味を共有する仲間と交流が図れる場だ。同時に日々の練習をサポートしてくれる伴走者と新たに出会える貴重な機会でもある。

●パラ選手の発掘も目的

 日本盲人マラソン協会事務局長の在田宗悟さんは、研修会の開催目的をこう語る。

「当初は視覚障がいを持つ方々に、ランやウォークができる場を提供して、ご自身の生活の活力にしてもらいたいというのが大きな目的でした。引きこもりがちな人にとって、外出できる良いきっかけになれば、と」

 あわせてパラリンピックに出場できるような選手の発掘も目的となっていった。

「マラソンというスポーツは視覚障がい者の方も、健常者と同じ土俵で戦うことができるスポーツです。ただし、視覚障がい者には伴走者が必要不可欠。伴走者を養成していくことも研修会の目的となっていきました」

 視覚障がいのあるランナーが走る上で苦労するのは、走りたい日時にサポートしてくれる伴走者がなかなか見つからないことだ。現状は、視覚障がい者が個人のつながりで複数の伴走者と連絡を取り合い、都合が合致したときにだけ走るような形しかとれない。

「協会が人材バンクのような形で、伴走者を探している視覚障がい者をサポートできるのが理想ですが……。現状は月に1回の練習会開催と、年に1度のこの研修会で伴走者になりたいという人を養成していくことに力を注いでいます。視覚障がい者にとっては、同じ人にばかり、伴走をお願いするのは心苦しいという気持ちが働きます。1人の視覚障がい者が、10人ぐらいの伴走者とつながりを持つのが理想だと考えています」

 今年の研修会の参加者は36人で、そのうちの半数以上が経験の浅い伴走初心者だった。

次のページ