かつて小泉純一郎元首相の総理秘書官を務め、現在は安倍首相のブレーンを務める内閣官房参与の飯島勲氏(70)だ。本誌の取材に応じた飯島氏は1時間にわたり、シベリア鉄道延伸への思いを語った。
●単調で楽しくない船旅
──シベリア鉄道北海道延伸を着想したきっかけは?
20年ほど前から考えていた。船で世界を一周するツアーはたくさんあるが、船だと水平線しか見えないしあまり楽しくない。一方、鉄道なら車窓が次々変化して飽きないし、途中下車など様々な旅の楽しみ方ができる。シベリア鉄道が日本とつながれば、日本からスペイン・マドリードまで鉄道で旅行できるという選択肢ができる。ユーラシアと日本が線としてつながる心理的影響は大きい。
もちろん、陸路の貨物輸送経路としても期待できる。海路なら日本からスペインまでスエズ運河経由で20日以上かかるが、シベリア鉄道を高速鉄道化すれば1週間以内で結ぶことも可能になるだろう。
──実際にロシア政府側に実現を働きかけた?
つてのあるプーチン氏の側近にアイデアを伝えたりしてきた。11年にプーチン氏の側近から連絡があり、「大統領選の中でプーチン氏が、シベリア鉄道と日本をつなぐ可能性について言及する」と伝えてきたため、当時連載していた雑誌にシベリア鉄道北海道延伸案について「プーチン氏も了承」と書いた。
──今回、ロシア側からシベリア鉄道延伸を求められたことについては。
それは私は関与していないが、ロシア側の経済協力の一項目に選ばれたことは素直にうれしい。これほど早く実現に向けて道筋ができるとは正直思わなかった。
シベリアなど極東地域は人口減少に直面しており、プーチン氏は極東地域に「優先的社会経済発展区域(TOR)」を設定するなど産業を起こして活性化させようとしている。日本がその動きに参加すれば北海道など停滞した地域も復活し、日本経済全体も活気づく。お互いにとってメリットがある話だ。シベリア鉄道延伸はあくまでその中の一つのプロジェクトに過ぎないが、私にとっては長年の夢、ロマンということだ。
●建設費は関空の半分
──費用対効果の面で疑問視する声もある。
サハリンにはすでに鉄道があり、新規に建設が必要なのはサハリンから宗谷海峡を越え稚内までの約90キロ程度。日本の新幹線は1キロあたり約100億円かかるので、総工費はおおよそ9千億円だ。関西空港や東京湾アクアラインは総工費1兆5千億円近くかかっていることを考えるとその半分で建設できることになる。国家プロジェクトにする必要もなく、日本側はJRとJBIC(国際協力銀行)が開発主体となり、民間主導のプロジェクトとして建設可能だ。
●ロマン足りない政治
──なぜ、シベリア鉄道延伸にこだわってきたのか。
政治家は本来、「この国/自治体をこういう形にしたい」という夢を持っているはず。小泉純一郎はそれが郵政改革だった。一生をかけて訴えるロマンを持っている政治家が今は非常に少ないのが情けない。私は政治家ではないがいくつも夢があり、その一つがシベリア鉄道の延伸だった、ということ。元気なうちにぜひ、乗ってみたい。
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確かにロマンのある話ではあるのだが、辻さんはシベリア鉄道の延伸案自体「ナンセンス」と断じる。
「ロシアからの輸入物資を主に使う場所は北海道ではなく、発電所や鉄工所のある太平洋ベルト地帯。鉄道で運ぶよりも、ウラジオストクから海路で運んだほうがよほど合理的です」
サハリンとロシア大陸部を結ぶフェリーの輸送量も年々落ちているという。それを陸路でつなぐプロジェクトを進めるため、将来的に日本ともつながるという大義名分が必要になった──と辻さんは読む。
「日本とサハリン、ロシアの交流を進めたいのなら、サハリンへの定期航空便を増やすなど先にやることがあります」
ロマンの力は、現実の壁を破れるか。(編集部・福井洋平)
※AERA 2016年10月17日増大号