政府の法制審議会で、配偶者の法定相続分の引き上げが議論されている。見直しが実現すれば、1980年以来の大規模改正となる。だが、そこには落とし穴も……。
Aさんは、夫を20年前に亡くしてから、ずっと東京都内で一人暮らしをしていた。自宅の2階を設計事務所に賃貸し、その家賃収入と年金で生活していた。次女のBさん(65)が週2日ほど通って家事を手伝い、賃貸に関する事務作業もしていた。
Aさんは93歳で亡くなり、相続人はBさんのほかに、長女のCさん(73)と、数年前すでに亡くなった長男の子ども2人(孫)で、合計4人。
自筆証書遺言が残されており、自宅の不動産はBさんに相続させると書かれていた。Cさんと2人の孫には預金を相続させるとされていた。しかし、遺言には書かれていない預金もあった。この相続案件を担当した税理士の内田麻由子氏が言う。
「この場合、方法は二つです。一つは、遺言はそのまま執行し、遺言に書かれていない財産だけについて分割協議する。もう一つは、遺言の内容を踏まえて、相続財産全体について分割協議をする。私は家族関係を良好に保つためにも、後者を提案しました。さらに、Bさんは不動産のみを相続したのでは相続税を払えないため、払える分くらいはBさんも預金を相続するように話しました」
●まずは税理士に相談
Cさんは納得した様子だったが、Cさんの娘が不満を言い出した。4人は、何度か話し合いをし、Cさんの相続分をやや多めにすることでまとまった。内田氏は「相続税のことを考えていない遺言は多い」という。
「遺言というと、すぐに公証役場に行く人が多いですが、遺言書を作成・保管するだけで、相続対策のアドバイスはできません。税理士に相続税の試算をしてもらい、弁護士などにも相談して遺言をつくってほしい」
こうした相続税のトラブルは、配偶者の相続分引き上げで、増えるかもしれない。詳細は後述するとして、政府の法制審議会で議論されている相続分野について振り返ってみよう。