皇室のあり方に注目が集まった2016年の夏。生前退位、皇室典範改正、女性宮家、女系天皇……多様で複雑な“問題”を私たちはどう考えるべきなのか。皇室を知り尽くしたジャーナリスト3人に聞いた。
●皇太子が60歳までに即位するには
──8月8日の「お言葉」をどう受け取られましたか。
久能:率直に、陛下らしいと思いました。同時に、いつかこうした結論をお出しになるのではという気がしておりました。
2010年のお誕生日会見で、陛下は「耳がやや遠くなり、周囲の人には私に話をする時には少し大きな声で話してくれるように頼んでいます」とおっしゃった。皇后さまも同年10月20日のお誕生日に、「この数年仕事をするのがとてものろくなり、また、探し物がなかなか見つからなかったりなど、加齢によるものらしい現象もよくあり……」と文書で述べられました。
ご自分の体調をかなり気にされていて、いずれ将来についての結論をお出しになるのだろうと思っていました。
山下:私も陛下らしいメッセージだと思いました。ただ、「退位」にまで踏み込まれたのは意外でした。「摂政」や「国事行為臨時代行」を模索されるのかと思っていましたが、よく考えれば、ありえなかった。被災地訪問にせよ、慰霊の旅にせよ、行動することで「象徴」を体現されてこられた。行動が伴わなくなったとき、天皇の立場にいることは考えられなかったのでしょう。
近重:宮内庁の幹部がご公務の軽減を提案しても、陛下はかたくなに拒まれてきたと言われています。陛下には、天皇の仕事は天皇が務めるべきで、代理を立てるべきではないというお考えが強くあったのだと思います。「お言葉」の中に、摂政についてよく思われていない表現があったことからも、「象徴天皇」は、しっかりと務められる世代の方が務めるべきものだというお考えが伝わってきます。
久能:陛下はかつて、昭和天皇のご名代としての海外訪問について、「心の重いことでした」とおっしゃっている。相手への礼を失しているのではないかと思うと気が重かった、と。