安倍政権が旗を振る「同一労働同一賃金」。日本型雇用システムのもとでは、実現は容易でない。だが、ライフステージに合わせて多様な働き方を選べる社会にするために、避けて通れない改革だ。
閑静な住宅街が広がる東京都東久留米市。巨大ターミナルの池袋まで西武線で20分ほどの東久留米駅の目の前に、りそな銀行の支店がある。ここを拠点に自転車で個人宅を回り、投資信託や保険を売り込む三ツ橋亮子さん(57)は勤続10年ほどのベテランのパート社員だ。
「昔とはモチベーションが違います。『私たちはパートだから……』という感覚はなくなってきています」
以前は、外回りから戻って夕方遅い時間に電話セールスをしていると、同僚のパート社員たちから「そんなことしなくていいよ」「もう帰る準備をしたら」と声をかけられることもあったという。そんな雰囲気ががらりと変わるきっかけとなったのが、2008年の人事制度改革だった。
●社員の力をフル活用
仕事の内容が同程度なら、正社員でもパートでも時間当たりの基本給(職務給)を同じにした。具体的には、取得した資格や技能、任される役職といった共通のモノサシによって個々の社員を毎年評価し、「職務等級」を割り振る。同じ等級の人には同じ基本給が支払われ、昇格も同一の基準で判断される。ただ、賞与や各種手当、福利厚生は正社員のほうが手厚い。正社員は会社の命令で遠隔地に異動したり、時間外や休日にクレームに対応したりする必要があることが、基本給以外の部分で差をつける根拠だという。
りそなグループでは、りそな銀行だけでなく埼玉りそな銀行、近畿大阪銀行も含めて計2万5千人弱にほぼ同じ人事制度を適用している。
「制度を導入した当時、同一労働同一賃金という考え方が先にあったわけではありません。従業員が性別や年齢、職種にかかわりなく活躍できるダイバーシティー・マネジメントを突き詰めようとしたら、結果としてそうなったのが実情です」
りそな銀行人材サービス部の九鬼至留(くきいたる)グループリーダーはこう振り返る。