劣勢が伝えられる米大統領選の共和党候補トランプ氏。主要メディアを敵に回し、右派サイト会長を選挙参謀に起用するなど、「分断」を加速させている。
「主要メディアは、最も不誠実な奴らだ!」
ドナルド・トランプ氏が前方を人さし指で示すと、集会に来ていた約1500人の支援者が「ブーッ」と言いながら総立ちになった。指の先は、演台の真ん前に設けられたテレビや新聞の取材陣が集まる「メディアプール」だ。鉄柵の中にテレビカメラがずらりと並び、CNNやニューヨーク・タイムズなど有力メディアの記者たちが、数カ月間も家に帰らずつきっきりで取材している。
●右派サイト会長を起用
そんな報道陣に、支援者たちは「最低」という意味を込めて中指を立て、なかには罪人でも見るかのように、スマートフォンで記者たちを撮影する人さえいる。7月27日、東部の激戦州ペンシルベニア州スクラントン。トランプ氏の集会でのひとこまだ。4月のニューヨーク州でのトランプ氏の集会でも、同じ光景を目にした。
大統領選の候補者に密着取材する記者たちが、過去にこんな侮辱を受けただろうか。
「トランプ氏は、憎しみを増幅するグループを表舞台に押し上げた」
ライバルの民主党候補ヒラリー・クリントン氏は、8月25日の集会で、珍しくそんな厳しい言葉を使った。トランプ氏が同17日、右派サイト「ブライトバート」会長のスティーブン・バノン氏を、選挙陣営の最高責任者に据えたと発表したからだ。元ゴールドマン・サックスの金融マンで、「米国の最も危険な政治工作員」(ブルームバーグ)と評されたバノン氏の起用は、政界とメディアを震撼させた。
「避妊をしている女性は魅力的ではない」
「子どもに男女同権主義とがんのどちらを選ばせたいか」
などなど、男女平等の否定、移民や非白人への差別、反自由主義をあからさまに掲げるブライトバート。トランプ氏の出馬表明後、急速に右傾化し、知られるようになった。