![七尾旅人(ななお・たびと)/歌の発明家。ポップミュージックからアバンギャルドまで、多彩な作風で人気を集める。「兵士A」はDVD/Blu-rayで発売中。上映会情報はwww.tavito.netへ(撮影/写真部・岸本絢)](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/2/4/466mw/img_24cc6b3907bb4ab37076d9224ecfedde38262.jpg)
人気シンガー・ソングライターの「異形」のライブパフォーマンスがDVDになった。テーマは「平和国家ニッポン」で生まれる「最初の戦死者」。七尾旅人はなぜ、いまこのテーマを歌うのか。
国会が、世論が、集団的自衛権の行使容認をめぐって揺れた2015年。当時36歳のシンガー・ソングライター七尾旅人は、東京・渋谷の500人収容のライブハウス「WWW(ダブリュダブリュダブリュー)」で歌っていた。3時間で23曲。場内を埋めた観客は、ステージを凝視したまま、立ち去らない。
ギターを抱える姿はいつもと同じだ。しかし、その表情には鬼気迫るものがある。長髪を丸刈りにし、迷彩服に身を包んで歌うのは、ある青年の物語。ライブの題名は「兵士A」──。
七尾は言う。
「いま日本人は、最初に戦死する自衛官の姿をリアルにイメージできているか。“戦後日本”という言葉に幕引きをする、極めて特異な存在です。真剣に作品化しなくてはと感じた」
●60年代と違うやり方
たとえば、こう歌う。
僕たちは/ある朝ニュースで君のことを知る/しばらくのあいだ/君の名前は隠される/最初の数ヶ月/君の名は英雄の呼び名となり/そしてやがて/君の名前は/当たり前のものになる/Aくん/Bくん/Cくん/Dくん(「兵士Aくんの歌」)
フレーズには鈍痛のようなリアリティーがある。七尾は、
「明確に反戦を歌っている」
と語る一方、こうも話した。
「1960年代と同じやり方のプロテストソングでは不十分ではないか。長い歴史の果てに現代日本があり、複雑な問題を抱えています。特定の何かを批判するだけでは描ききれない」
ならどうする? 代案を出してみろと詰め寄られたら、七尾はこう答えるだろう。
「新しい方法論を考えて、描写する」
描ききることで、仮に希望が1ミリもなくても、後の世を生きる世代はそれを教材にするだろう。実は、作家の平野啓一郎も七尾と同じことを言っている。