ちなみに、キヤノンのブースもそばにあり、同じようにサポートしている。スポーツを撮影するカメラマンの9割以上がニコンかキヤノンのカメラを愛用し、両者が最前線の現場を支えている。五輪の現場で出合った日本の技術力の高さに、誇らしい気持ちがした。
ビデオカメラも日本企業が支えている。パナソニックは、五輪の全競技の映像を撮影し各国に配信するオリンピックブロードキャスティングサービス(OBS)に、最新のカメラ100台、レコーダー100台、テレビモニター1300台を提供。システム事業担当・山本耕司さん(59)は言う。
「オリンピックは最新の技術が集まる場所。各会場での撮影現場やシステムなどを見ておき、東京オリンピックに向けて、いろんな提案をしてみたい」
●ブラジル流のもてなし
ブラジルでは基本的に英語は通じない。それでも、ここでは「言葉は通じなくても心は通じる」を体現している。私が地図を開いていたり、きょろきょろしていたりすると、必ず声をかけてもらった。ポルトガル語の説明がどうにも理解できないでいると、手を引っ張って連れていってくれたこともあった。
深夜、1時間ほどかかるメディア・ビレッジまでタクシーで帰ろうとしたときのこと。五輪に向けて開発された一帯で、ほとんどの運転手は道もわからないエリアなので、日本だったら乗車を断られそうなものだが、ブラジル人のタクシー運転手は、他のタクシーの運転手に聞いたり、走る白バイを道端に止めさせて道を教わりながら、ついに到着。運転手さんとハイタッチで喜び合った。私は思った。ブラジルのおもてなしは最高だ──。
4年後の日本で、言葉が通じない外国人に対して、こんなにも温かい歓迎ができるのだろうか。ブラジルに学ぶことは多い。(編集部・深澤友紀=リオデジャネイロ)
■室伏広治東京五輪スポーツディレクターの提言
4年間のすべてを懸ける 選手に寄り添う運営を
東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会のスポーツディレクターとして、初めて選手以外の立場でオリンピックを見ています。
リオ大会は、最初の頃は足りない点やうまくいかない部分もありましたが、大会組織委員会が国際オリンピック委員会や各国のオリンピック委員会とも協力し合い、チームワークで成功に導いている。東京五輪・パラリンピックに向けても、高レベルのコミュニケーションが重要だと感じます。
五輪の運営では、選手が最高の状態で競技に臨める環境をつくることが大切です。五輪は選手にとって4年に1回の舞台。僕も現役時代は4年間のすべてを2時間に懸けていました。そういった選手たちの気持ちがわからないと、絶対にいい大会にはならない。ただ単に競技会場をつくって運営するだけでなく、真心をこめておもてなしすることが東京五輪の成功につながると信じています。
今大会は日本選手が活躍していますね。もちろん金メダルは素晴らしいですが、男子卓球の水谷隼選手、カヌースラロームの羽根田卓也選手、テニスの錦織圭選手など、これまで日本が長く苦手としてきた競技でとった銅メダルは、文字通り金と同じ価値があります。
日本国内も盛り上がっているようですね。これは東京五輪への追い風です。パラリンピックのロンドン大会が成功したのは、その4年前の北京大会でイギリスの選手が活躍したことが理由なんです。今大会の日本選手の活躍は、東京大会の成功につながるでしょう。(構成/編集部・深澤友紀=リオデジャネイロ)
※AERA 2016年8月29日号