開発されたホワイトボックス型AIは、顧客の解約予測、水需要の予測など、多分野で導入が進む。スーパーで値下げを行おうというときは、全体の価格最適化ができなければカニバリゼーションが起きて、店舗全体の売り上げが低下する。たらこのおにぎりの価格を下げ過ぎたことで、サケのおにぎりが売れなくなる、といった具合だ。
商品数が増えれば値引き率との組み合わせは膨大。このAIは瞬時に、価格と需要の相関、天候や時間帯など、さまざまな要素から、全体利益を最大化する案を提示してくれる。実データを利用したシミュレーションでは11%の売り上げ向上が試算されたという。
最後に、出力過程の失敗に関しては、人工知能と人間の役割分担はどうなるだろうか。
AIがどんなにすばらしい判断をしても、最後にボタンを押すのが人間である限り、失敗はなくならないのではないか。
「突き詰めて言えば、人間がバックアップしなければいけない程度のシステムなら、使わないほうがいい」
と話すのは、前出の芳賀教授だ。テスラの事故では、ドライバーが走行中にDVDを見ていた可能性も指摘されている。そもそも、運転を機械にまかせるために人間がそれをずっと見張っているというのは本末転倒。長時間の監視は、人間がいちばん苦手とする仕事だ。
「今の自動運転技術の開発は、機械の失敗を人間がバックアップする方向に進んでいるように見える。鉄道や自動車などこれまでの事故防止システムは、人間の失敗を機械がバックアップする方向だった。その方向でもまだやれることがたくさん残っていると思います」(芳賀教授)
●弱点を補い合って共存
オムロンが先月発表したのは、まさにそんなAI。
車の前方の状況ではなく運転する人間自身を、AIを搭載した車載センサーで見守る。運転者の状態をカメラで認識し、時系列ディープラーニングという技術を用いて、運転に集中できる状態かどうかを判定する。
わき見、スマホ操作、居眠りなど運転者の動作から危険度をリアルタイムでレベル分けする仕組みで、自動運転技術と組み合わせれば、危険と判断すると同時に手動運転から自動運転に切り替えることも可能になる。
計算力ではAIが人間に勝るのは間違いない。その能力を人間がどれだけ理解し、対話することができるか。AIと人間が互いの弱点を補いながら共存する未来が見えてきた。(編集部・高橋有紀)
※AERA 2016年7月18日号