今、結婚相手の候補として密かに急浮上しているのが「童貞」だ。女性経験は少ないが、謙虚で優しい。キャリア志向の女性こそ、「童貞婚」を目指すべきなのかもしれない。

 メガネでちんちくりんでスーツが体形に合っていなくて、仕事用のカバンにフィギュアをジャラジャラ、口癖は「ワロス」「ガクブル」「カワユス」って、いわゆる2ちゃん語? 絵に描いたようなオタク系の、女性に縁遠そうな男――。

 それが金融系会社員の夫(32)に対する第一印象だったと、都内在住の会社員女性、A子さん(33)は振り返る。

 出会いは5年前。当時A子さんは社内恋愛中で、しかも相手は社内でも有名なイケメンかつ出世頭の男だった。「金融マンと合コンしたけどすごいオタクな人がいたのよ」と友人に誘われ、彼氏がいることを伏せて参加した合コンで後の夫に出会った。後で知ったが、やはり女性経験は皆無、「童貞」だったらしい。オトコとして意識する要素はゼロのはずだった。

 2軒目に移動した先で、A子さんはお気に入りのピアスを落としたことに気づいた。それに気づいた彼の姿がいつのまにか消えていた。後で聞くと、タクシーを降りた場所まで戻って地面を這って一生懸命探していたらしい。次の日、メールが来た。

「あなたならきっと、もっと素敵なピアスをくれる男性が見つかりますよ」

「一緒に探しに行きましょう」でも、「僕がいいピアスを買ってあげますよ」でもない。いかにもオクテな発言。だけど言葉が誠実でホッとした。彼の存在が少し心の中で大きくなった。

 当時の恋人はイケメンなだけに上から目線。デートでは「なんでオレがおごる必要があるの?」、仕事に疲れたとこぼすと「オレの前で辛気くさい顔をするな!」といった調子。童貞クンの存在がA子さんの中で逆転するまでに、3カ月しかかからなかった。つきあう時、こう約束してもらった。

「世界の中であなただけは唯一、私のことをお姫様扱いして。そして、『A子と結婚してよかった』といつも、周りの人にも言葉で言うようにしてください」

『「ゆるオタ君」と結婚しよう!』などの著書があるマーケティングライターの牛窪恵さんは、こう語る。

「早く結婚したい女性、特にバリキャリ女性にとって童貞男性は『ブルーオーシャン』(競争相手の少ない広大な市場)です」

 女性に積極的にアプローチし、ぐいぐいリードしてくれる肉食系に女性は惹かれがちだが、キャリアと結婚生活の両立を考えた時、必要なのはリード力よりも癒やし力。そう考えれば、肉食系よりも童貞男性のほうが結婚相手にふさわしいというのだ。

AERA 2013年7月8日号