いまや味や量だけではなく、パッケージやユーザビリティー(使いやすさ)で食品が選ばれる時代。各社は「注ぎ口」でも変革を迫られている。(編集部・小野ヒデコ)
小麦粉といえば、ひと昔前までは1キロの紙袋タイプが主流だった。ホワイトソースをつくるとき、紙袋から大さじすり切り1杯を取り出し、粉まみれの手で木ベラで牛乳と一生懸命に混ぜたのに、ダマができてしまった……。そんな経験をお持ちの方も多いのではないだろうか。
こうした悩みを解消したのが、日清製粉グループの「クッキングフラワー」。調味料のようにひと振りもできる注ぎ口が特徴だ。3年半の開発期間を経て、昨年2月に発売された。
「お客様がレシピを参考にして料理をするとき、『小麦粉少々』を面倒だから省略するという話を聞き、ショックでした」
日清フーズ営業グループの水田成保(なるやす)さん(34)は、開発に至った経緯をそう語る。
小麦粉は料理では脇役だが、「ちょっとの手間」でおいしくなるのも事実。そこで消費者が小麦粉を使う回数と一度に使う量を調査したところ、トンカツなどの打ち粉として少量使用する頻度が高いことがわかった。容量も少なめを好む傾向があり、「少量で使いやすくムダがない」を開発コンセプトに据えた。
パッケージ開発にあたっては、スーパーの店頭に陳列されたあらゆる商品を購入して研究。大さじがラクに入る「すり切り口」は、粉ミルクを参考にした。
容器の形は30種類ほど試作。モニター調査での「振りたいところに振れない」「振りたい量が出てこない」などさまざまな要望を参考に、最終的には直径5ミリ×5穴がベストという結論にたどり着いた。
●粒の大きさを均一化
容器や注ぎ口だけでなく、中身の小麦粉も改良した。開発グループリーダーの榊原通宏さん(41)によれば、
「穴の大きさと粉の粒度に徹底的にこだわり、100種類以上試作を重ね、振り出しやすさと溶けやすさを両立させました」
粒の大きさを均一化して振り出し口に詰まらないようにした。水溶性が高いためダマにもなりにくい。製造ラインも更新した。
「企画を提案したとき、『できる』と言われるのは新しくないということ。『難しい』と言われるものに今後もチャレンジしていきたい」(水田さん)
今年度の売り上げ計画は5億円だが、2倍を上回るペースで売れているという。
しょうゆの消費量が減少するなか、プラスチックボトルに入ったキッコーマン食品の「いつでも新鮮」シリーズが好調だ。発売から毎年、倍々ゲームで売り上げが伸び、今年度は80億円を超える見込みだ。
容器を二重構造にし、内袋のしょうゆを空気に触れさせないパウチタイプの発売では他社に先を越されたが、2011年に片手で注げる「やわらか密封ボトル」を開発し、巻き返した。
「きっかけは『生しょうゆ』という新しい味をお客様に届けたいという思いでした。密封ボトルの開発はその結果論です」(プロダクト・マネジャー室の井上美香さん)
普通のしょうゆは製造工程の最後に「火入れ」がある。殺菌とともに、香ばしさが高まる。一方、生しょうゆは火入れをしないため、味はフレッシュでフルーティー。ただ、発酵が早く、風味が落ちやすい。一般の流通経路で販売するのは難しいとされていた。