●臨時職が6割 正規と同じ責任

 そして、公立だから安心して働けるとも限らない。都内の公立認定こども園で働いていたシンジさん(30)は、地方公務員だったが安定とは名ばかり。

「実際はサービス残業の毎日で、超長時間労働だった」

 毎日、夜9時まで会議があり、残った仕事は家に持ち帰った。それでも間に合わず、土日も家で仕事した。ぐったりした状態で朝を迎え、子どもや保護者には明るく接しようと努めたが、心のなかでは「疲れた、休みたい」と叫びたい気持ちでいっぱいだった。保育士3年目でうつ病にかかり1年ほど休職した。

「復職しても、これから先の人生これでいいのか」

 結婚の予定もあり、ワーク・ライフ・バランスが図りやすい事務職への転職を決めた。

 地域によっては、公立園でも園長以外はすべて非常勤という場合もある。若手の採用枠は臨時・非常勤職員でしかないケースは珍しくない。全国社会福祉協議会と全国保育協議会が行った「全国の保育所実態調査報告書2011」によれば、公営保育園の保育士のうち非正規の割合は53.5%と過半数を占めるようになり、06年と比べても5.6ポイント上昇している。

 関西地方のある自治体では、公立保育園で臨時職員が6割を超え、正職員と同じ責任を負って働いている。ある保育園では、0歳は正職員が2人と臨時職員が2人で担任を受け持ち、2、3歳は正職員1人に臨時職員が加わる配置だ。担任が臨時職員だけのクラスもある。臨時職員の年収は正職員の半分以下で約200万円。自治体の非正規の保育士(40代)は、「それでも民間に比べれば、まだマシ」という。

 働く親たちにとって、保育園は何よりも頼りにしたい場所だ。そこで働く保育士が生き生きと働けなければ、親たちも安心して預けられない。

 国は17年度末までに待機児童50万人の受け皿を用意するため、保育士を新たに約9万人確保するというが、小手先の処遇改善では保育士の離職は止まらず、現場が疲弊するばかりだ。

(文中カタカナ名は仮名)
AERA 2016年2月1日号

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小林美希

小林美希

小林美希(こばやし・みき)/1975年茨城県生まれ。神戸大法学部卒業後、株式新聞社、毎日新聞社『エコノミスト』編集部記者を経て、2007年からフリーのジャーナリスト。13年、「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。近著に『ルポ 中年フリーター 「働けない働き盛り」の貧困』(NHK出版新書)、『ルポ 保育格差』(岩波新書)

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