アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は首都高速道路の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■首都高速道路 東京建設局建設管理第一課 課長 原隆広(48)
首都東京の大動脈、首都高速道路の中央環状線が3月7日、全線開通する。
「計画から50年。私の年齢と同じほどの年月をかけて、ようやく完成しました。今はちょっと寂しいですね。今年、息子が進学のために家を出るのですが、同じような気分」
原隆広は、巣立つ直前の高速道路をいとおしそうに眺めた。
武蔵工業大学(現東京都市大学)工学部で交通工学を学び、1990年に入社。多くの路線の計画や調査部署などを経て、約2年前に今の部署に配属された。12人の部下とともに、設計や調査部門、工事事務所など、関係する部署を見渡し、作業がスムーズに進むよう調整するのが仕事だ。
中央環状線は当初、2013年度末の開通を予定していた。それが1年延期になったのは、山手トンネルの工事の遅れによるものだ。
「トンネル内の出水が原因。対策工事に1年かかりました。現場に泊まり込んで対応に当たった社員たちは、気が気じゃなかったと思います。現場ではどうしてもトラブルが発生する。そんな中で現場が工事に集中できるように社内外の調整をするのが、我々の仕事」
工期が延びれば、会社の経営にも周辺住民にも影響が出る。相当な重圧がのしかかったはずだが、原は笑う。
「ノーストレスです。“仕事は楽しく”がモットー。部下にも『問題を抱え込まず、声に出していこう』と呼びかけています」
山手トンネルの長さ約18.2キロは、道路トンネルとしては日本一。世界的にもノルウェーのレアダールトンネルの約24.5キロに次ぐ。世紀の大事業が終わり、今後は既設の道路のメンテナンスや、車線数を増やす改築工事が中心になる。だが、原は思う。
「個人的には、むかし立案された首都高速道路計画のうち、実現していないものを建設していきたい。まだ夢が見たいんです」(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(ライター・安楽由紀子)
※AERA 2015年3月16日号