アベノミクス効果も手伝い、活況となった東京都心の不動産市場。高額の分譲マンションも「即日完売」状態だ。一方で、現場は建築費の高騰に頭を悩ませている。
多摩地域の中心地、立川市では今夏、不動産関係者が舌を巻く出来事が起きた。長谷工アーベストの「住みたい街(駅)ランキング」担当者は言う。
「新宿の分譲マンションと比べても遜色ない値段の物件なのに、すぐ完売したんです」
その物件とは、野村不動産が7月に発売した「プラウドタワー立川」。JR立川駅直結で32階建て。全300戸超のタワーマンションだ。
第1期販売の250戸は、10日間ほどで完売。業界内でいう「即日即完」だ。価格は立川市内の20年間の平均の倍近い1坪あたり約340万円。港、千代田、中央3区のここ20年間の平均単価も超え、野村不動産が新宿で販売した駅徒歩5分の物件よりも高い。
こうした現象は、立川に限ったことではないようだ。不動産経済研究所によると、首都圏の分譲マンションの平均価格は、バブル後で最高の水準にあるという。
もっとも、悩みもある。三菱地所レジデンスの小野真路社長は言う。
「いかんともし難いのが建築費。最近はなかなか採算があわない厳しい状況です。業界では建築費の高騰が問題になっています」
不動産経済研究所の松田忠司・企画調査課長によると、これまで首都圏の不動産ニーズは都心、神奈川、都下、埼玉、千葉の順に高まり、時計回りのトルネードのように不動産価格が高騰していくのが一般的なパターンだった。ところが、昨年からの不動産価格の上昇局面では、建築費と地価高騰の影響によってその流れが崩れ、首都圏全体が一斉に値上がりする傾向にあるという。
さらには業界の事情も絡んでいるらしく、
「リーマン・ショックで中堅のマンションディベロッパーが大きく減り、供給側は中堅不在の状況です。大手は都心狙いのため、分譲マンションの平均価格がつりあがっているようです」(松田さん)
建築費の高騰は、東日本大震災の復興需要や「東京五輪特需」の影響もあるが、松田さんはほかの要因を指摘する。民主党政権時代の「コンクリートから人へ」などの政策によって、大工職人がタクシー運転手などに転職。職人の絶対数が不足し、建築費に影響しているというのだ。
※AERA 2014年12月1日号より抜粋