厳しい表情で会見に応じた家族会代表の飯塚繁雄さん(右)と横田さん夫妻。報告先送りに怒りと失望がつのる (c)朝日新聞社 @@写禁
厳しい表情で会見に応じた家族会代表の飯塚繁雄さん(右)と横田さん夫妻。報告先送りに怒りと失望がつのる (c)朝日新聞社 @@写禁
この記事の写真をすべて見る

 5月29日の日朝合意で発足した特別調査委員会。当初「夏の終わりから秋の初め」に北朝鮮が最初の報告をするとされていたが、その期待はあっさり裏切られた。日本政府によれば、北朝鮮は「まだ初期段階を超える説明はない」としているという。

 最初の報告は「9月第2週」になるはずだった。現在、日本政府は北朝鮮の報告をまだ受け取っていない、というニュアンスで発表しているが、少し裏を読む必要があるだろう。

 というのも、実際には、調査報告の大方の内容はすでに水面下で日本側に伝えられていた可能性が高い。しかし、日本は受け入れなかった。なぜなら、北朝鮮の報告には、政府認定拉致被害者についての情報が含まれていなかったからだ。

 北朝鮮の宋日昊(ソンイルホ)・朝日国交正常化交渉担当大使が9月9日、平壌(ピョンヤン)で共同通信の取材を受けた。

 その映像が象徴的だった。何かが書かれているA4判の2枚の紙を手に、深々とソファに腰掛けた体をくねらせながら、宋氏はしゃべり続けた。

「最初の調査報告に関し最も簡単な方法は、日本側の関係者が平壌に来て調査委メンバーから説明を受けることだ」
「調査結果は(日本側に伝達できる情報は)十分にある」

 ここで重要なのは、「平壌まで聞きにこい」と語っているところだ。調査報告を日本側が受け取れないことを承知で挑発しているのである。

 そもそも特別調査委員会の分科会で、北朝鮮は調査する4項目の順番を「遺骨と墓参」「残留日本人と日本人配偶者」「拉致被害者」「行方不明者」とした。一方、日本側は拉致を先頭に置いた。いわば「同床異夢」状態であり、議論が紛糾するタネはいくらでもあった。

 しかも、拉致問題にどこまで重点を置くかは合意文書には書かれていないので、現段階で拉致問題の情報を出せと日本がごり押しするにはやや無理がある。

 29日の局長級協議でも日本側を満足させる結果が出てくるとは思えない。そもそも宋大使は「調査はできている」と言っているのだから。宋大使の話がすべて正しい、というつもりはない。北朝鮮は恐らく日本に情報戦を仕掛けており、交渉を引き延ばして期待をつり上げ、もっと多くの「獲物」を引き出す狙いなのは間違いない。

AERA 2014年10月6日号より抜粋