もともと金属加工所で、少し前まで高齢の女性が一人暮らししていた日本家屋。女性の転居後、改装可能な賃貸として借り手を募っていた。工員用の二段ベッドなどかつての面影が残る建物を、30代のクリエーターが自分たち好みに改装した(撮影/品田裕美)
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もともと金属加工所で、少し前まで高齢の女性が一人暮らししていた日本家屋。女性の転居後、改装可能な賃貸として借り手を募っていた。工員用の二段ベッドなどかつての面影が残る建物を、30代のクリエーターが自分たち好みに改装した(撮影/品田裕美)
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 最近増えてきたシェアオフィス。都会のオシャレなビルをイメージしがちだが、中には築50年を超える物件でシェアオフィスを開いている人々もいる。

 京王線代田橋駅にほど近い閑静な住宅街に、築50年を超える木造一戸建てがたたずむ。玄関には「杉並海の家」の看板(東京都杉並区)。

 プロダクトデザイナーの海山俊亮さんの自宅兼事務所で、3人のクリエーターとシェアするオフィスである。家賃はそれぞれ2万5000円ずつ負担している。

「事務所を移転するために、物件を探しました。一目でここが気に入ったのですが、1人で使うには広すぎるので、友達に声をかけたのです」(海山さん)

 シェアメンバーは全員30代。テキスタイルデザイナーの清水谷泰伸さんは、「自宅は都心から離れていて、仕事の打ち合わせが大変でした。代田橋なら、便利かなと。縁側と庭にも惹かれました」と語る。

 カメラマンの品田裕美さんは、「会ってみるまで、どんな人が集まるんだろう?と思っていましたが、海山さんの友達だから不安はありませんでした」と笑顔を見せる。予想は的中し、職業は違えど、趣味嗜好の似通ったメンバーがそろった。

 数年前から、シェアオフィスブームは広がっているが、多くは渋谷や青山など繁華街にある。

 しかし、杉並海の家は、住宅街にあり、それらとだいぶ趣が異なる。しかも、賃貸住宅でありながら、自由に改装できる。

「古い建物ですから、構造に影響しない範囲なら、どう改装してもいいという条件でした」(海山さん)

 2012年9月から約半年間をかけて、天井を塗り直し、畳をはいでフローリングを敷いた。2階はもともと3部屋だったが、壁を取り払い、広い1部屋にした。

 メンバーの一人、ミュージシャンでナレーターの平床政治さんは懐かしそうに振り返る。

「土壁を砕くと、土とホコリが舞い上がり、中から竹で編まれた土台が出てきて。それがなかなか取れず、大変でした。天井をペイントした時も、腕が疲れて筋肉痛になるほどでした」

 海山さんだけは以前の事務所でも改装した経験があるが、ほかのメンバーは全員が初めて。だが、海山さんの知人で内装施工のプロのアドバイスを受けながら、和気あいあいと作業した。

 出来上がった内部は、玄関を開けるとすぐ土間があり、大きなテーブルを置いた打ち合わせスペースとなっている。畳敷きの小上がりはちゃぶ台があり、メンバーや友人らで食事をしたり、くつろいだりする“居間”だ。

AERA 2014年9月8日号より抜粋