ひとりぼっちを指す「ぼっち」、ひとりで食事しているところを見られたくないためトイレの個室で食事する「便所飯」など学生の孤立化が問題視されて久しい。若者向けフリーペーパー「R25」が大学生を対象に調査した結果、「ぼっちだと思うことはあるか?」の質問に対し「一度もない」と答えたのは26%。「よくある」が21%、「たまにある」は53%と、7割以上の人がぼっちを実感した経験を持つ。
日本で初めて学生相談を始めた東京大学の学生相談ネットワーク本部によると、四つの相談施設を合わせた延べ利用者数が2012年度で約1万8千人(学生のみ)。年々増加傾向にある。
学生相談所でカウンセラーを務める高野明さん(41=臨床心理士)によると、相談は大きく分けて2種類。「ひとつは学業や研究、就活がうまくいくか不安というもの。もうひとつは人間関係の悩み」だという。
「孤立していたり人間関係に悩んでいたりする学生は両義的。他人とかかわりを持つことに積極的な価値を見いだせず、プライバシーに踏み込まれない“ぼっち”の心地よさを感じる一方で、欠席したときにノートを貸してもらえない、試験前に過去問が回ってこないという現実に取り残され感もある」(高野さん)
そういったジレンマを自分の中で解消できず、両義的なまま揺れてしまう。だからなのか相談に来る学生たちは「普通」という言葉を繰り返すそうだ。
「普通はみんな、僕みたいにぼっちじゃない」「普通はサークルに入って友達もいる。私は普通じゃない」
普通の学生と比較して自分自身を否定する。半ば自虐的に、だ。では、彼らのいう「普通の」学生像はどんなものかといえば完全なリア充。サークルをガンガン楽しんで、ボランティアもやって、留学までする。アクティブでパワフルでソーシャルな「実はごく一部の学生たち」と自分とを比べてしまう。サークルの加入率は年々上昇し9割近い。が、そこで人間関係が必ずしも深い結びつきに至らないのが現状なのだ。
「そこで、人は人、自分は自分というふうに確固たる自分を持つことができるといいのですが、それが難しいようです」(高野さん)
※AERA 2014年5月19日号より抜粋