日本の消費者の目や舌は、世界一肥えている。そこで戦ってきた商品は、アジアでも十分に通用する。
「生のままで、こんなにおいしいイチゴは食べたことがない」
インドの高級ホテルのシェフはうなった。農業生産法人「GRA」が技術を持ち込み、同国で生産したイチゴが今、現地の美食家の注目の的になっている。それもそのはず。従来のインドのイチゴは、トマトほどの糖度しかなく、ジャムに加工しなければ食べられなかった。
きっかけは東日本大震災だった。GRA代表の岩佐大輝さんは宮城県南部の山元町出身で、東京で法人向けにパソコンの出張修理を手がける会社を経営していた。しかし震災後、名産のイチゴ栽培を復活させようと帰郷。2人の生産者とGRAを立ち上げた。
ただ土壌は津波をかぶり、従来の土耕栽培はできない。そこでビニールハウス内の地面から1メートルの高さにヤシ殻の栽培床を設置し、水の使用量を抑える「高設栽培」にたどりついた。ハウス内の管理はITを駆使し、二酸化炭素が薄くなったら自動的に補充する、といったシステムを導入した。
この栽培の仕組みが、国際協力機構(JICA)の目に留まった。12年に「貧困層向けの事業調査」案件として採択され、イチゴ栽培ができる環境になかったインド西部のプネ市に栽培技術を輸出した。GRAの職員が1人常駐する一方、岩佐さんはウェブカメラを通じてハウス内を観察し、アドバイスした。
初収穫すると、GRAには「ケーキのデコレーションに使いたい」といった要望が相次いだ。そこで14年2月、ムンバイのショッピングモールに小売店を出すことにした。
「日本の農家の『技』はグローバルに通用すると知りました」(岩佐さん)
※AERA 2013年12月30日-2014年1月6日号より抜粋