横山順一カスタマーセンターマネジャー前職は吉本興業に所属するお笑い芸人だった。コンビ名は「おもしろーず」「ドラゴンカフェ」と移り変わった(撮影/今村拓馬)
横山順一
カスタマーセンターマネジャー

前職は吉本興業に所属するお笑い芸人だった。コンビ名は「おもしろーず」「ドラゴンカフェ」と移り変わった(撮影/今村拓馬)
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稲垣あゆみUXデザイン室UXチームその時、やれることを精一杯やる。高校の恩師に言われた「全幅の人生」という言葉が座右の銘。「大学時代はその通りに生きました」(撮影/今村拓馬)
稲垣あゆみ
UXデザイン室UXチーム

その時、やれることを精一杯やる。高校の恩師に言われた「全幅の人生」という言葉が座右の銘。「大学時代はその通りに生きました」(撮影/今村拓馬)

 ユーザー数が世界で3億人を突破し、今なお成長を続ける無料通話アプリ「LINE」。日本語版と英語版を同時にリリースし、初めから海外に打って出た。ただ、最初に火がついたのは意外な場所だった。

「解読不能な言語で大量にメールが届くんで、なんじゃこりゃと。サービスが海を超えた瞬間を目撃しました」

 そう話すのは前職が「吉本興業の芸人」だったカスタマーセンターマネジャーの横山順一(32)。自動翻訳にかけてみるとアラビア語でサポートを求める内容だった。サウジアラビア、カタール、クウェート。サービス開始直後の2011年夏、新規ユーザーの3分の2は中東圏が占めた。理由は今も謎という。

 ただ、同種のメッセージアプリには米国の「ワッツアップ」や韓国の「カカオトーク」など競合も存在する。なぜ世界でLINEが選ばれるのか。突き詰めると、キャラクターを描いた大きめの絵柄「スタンプ」に行き着く。喜怒哀楽がユーモラスに表現され、文字メッセージの代わりに言葉では表しにくい微妙な感情が相手に伝えられる。

 LINEの「モノづくり」はデザイン主導型だ。一般にIT企業ではシステム開発者がプロトタイプをつくり、その仕様の範囲でデザイナーが画面を描く。LINEはその逆で、デザイナーがメニューやアイコンの表示など視覚に訴える要素を徹底して検証し、それを表現するべくシステムを開発する。ユーザーが感動するのは技術ではなく、製品の心地よさ。その発想はアップルに近いともいえる。

 スタンプで目指したのは、非言語のコミュニケーションのデザイン化。キーワードは、「性別や世代を超えて使用される絵文字の進化版」「エモーション(感情)を動かす」だった。日本人や韓国人デザイナーが描いたラフ案は約40個。その中に、あの白入道のような「ムーン」など代表キャラクターもいた。あまりに奇抜なデザインに、業戦略担当執行役員の舛田淳(36)の下で開発チームを束ねる稲垣あゆみ(31)は「受け入れられるか心配になった」という。若者を集め、リサーチルームでマジックミラー越しに反応を観察した。すると、女子高生の針が振れた。

「何これ、ちょーヤバい」

AERA 2013年12月9日号より抜粋