震災のボランティア活動を機に被災地に移り住み、復興に尽力する動きが「ソーシャル・ターン」と呼ばれている。一方で、震災を機に被災地に異動する「ソーシャル異動」なるものもある。
「ヤフー石巻復興ベース」
昨年7月末、ヤフー(本社・東京)は、石巻市中心部にあるビルの1階に、そう呼ばれるオフィス機能を新設した。東日本大震災の被災地で、ヤフーがIT(情報通信)の力で新しいビジネスをつくり出すために設けたオフィスだ。そこにソーシャル異動したのが、長谷川琢也さん(36 )。
「単純にモノを売るのではなく、大量生産・大量消費でないこだわりの商品を見つけ、インターネットで売っていきたい」と、楽しそうに笑う。
ヤフーは、震災が起きるといち早く、サイト上で物資を買って被災地に送れる「支援ギフト便」などを開始。12年4月には、社長をはじめ経営陣を一新、ITを使って世の中の課題を解決する経営ビジョンを掲げた。被災者と同じ目線で取り組むには、被災地に拠点を構えた方がいい──。ヤフー石巻復興ベースが開設され、長谷川さんに白羽の矢が立った。家族4人で移り住んだ。
東京出身。10年前にヤフーに入社し、異動前は、都内でコンシューマ事業統括本部の総合販売企画部長としてYahoo!ショッピングなどを担当。「ポイント○倍祭り!」などを企画し、サイトを盛り上げていた。
ソーシャル異動の醍醐味は、被災地で働かなければ決してわからなかった、喜びや達成感を得られるところだ。被災地で働く経験は、気持ちに変化をもたらした。長谷川さんは、異動してここは東京と違うことに気がついた。
「すごく体温を感じた。『血』が通った仕事だと思いました」
長谷川さんは「魚担当」。宮城を中心に岩手、福島の漁港などを回り、時には一緒に漁に出る。漁師が命懸けで海に出て漁をする姿を見ると、海や自然を身近に感じる。それを知った上で、自分が納得できた商品を販売できることに、やりがいを実感できるという。
長谷川さんの他にも、職種も経験もバラバラの20代から40代の社員5人が東京から来た。ビジネスである以上、第一のミッションは「黒字化」だ。13年度の黒字化を目指す。
「やる以上は、インパクトのある結果を残したい」
いずれは、インターネットを使い、被災地から世界を変えるようなビジネスにつなげていきたいと思っている。
※AERA 2013年10月21日号