イスタンブール、マドリード、東京の3都市で争っている五輪招致レース。下馬評ではマドリードとの一騎打ちが有力視される。だが4年前の完敗の教訓は生かされているのか。
「安全・確実」「先進的な環境都市」を訴えた前回は、「南米初」を訴えたリオデジャネイロ(ブラジル)に完敗した。今回も売りは「政治、経済の先行きが不透明な時代に、4千億円余の開催準備金を持つ東京は安全な選択」。理念と胸を張れるメッセージではない。
その点、イスラム圏初開催となるイスタンブールには大義名分がある。しかし、トルコ国内の反政府デモや、大量のドーピング違反が発覚したのが響く。マドリードもスペインの経済危機が影を落とす。相対的に東京が浮上する消去法の論理だ。
さらに東京には追い風が吹く。3年後のリオ五輪は、会場建設など準備の遅れが懸念されている。今夏、ブラジルで開かれたサッカーのコンフェデレーションズカップの際には「巨大なスポーツイベントより福祉優先を」という市民デモが暴動にまで発展。インフラ整備が途上のトルコが抱える不安と重なる。
ただ、ここに来て、福島第一原発の汚染水漏れが発覚したのは痛い。
「欧州の委員にはチェルノブイリ事故の残像があるから心配だ」(招致委幹部)。
さらに、東京は苦手分野であるロビー活動という難題を乗り越える必要がある。マドリードはスペイン出身のIOC委員が3人いる。故サマランチIOC前会長の息子、サマランチ・ジュニア理事を中心に他の委員を口説いている。
日本のIOC委員は、日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長しかいない。IOC委員の間で竹田氏は、「温厚で信頼できる」と評される。ただ、社交性が抜群とは言い難い。外国人記者からは「記者会見で決まったフレーズを繰り返すことが多く、自身の体験に裏打ちされた訴えが少ない。退屈」といった感想が多い。
「JOCがもっと強くならないとダメだ。推進力のある若手をIOC中枢に送り込まなければ」。4年前、石原慎太郎都知事(当時)がJOCの外交力不足を糾弾したのは的を射ていた。だが今、招致の最前線に立つ陣容は、あまり代わり映えしない。
前回つぎ込んだ招致費は149億円。高い「授業料」の教訓は生きるのか。もう、同じ敗因分析は許されない。
※AERA 2013年9月2日号