九州大学(福岡市)で今年度から始まった「自炊塾」。正規の授業で、定員の5倍も応募があるなど学生の人気も上々だ。背景には、乱れた食生活を気にする学生たちの姿があった。
大学が自炊を教える時代、学生たちはどんな食生活なのか。昼のチャイムが鳴ると、講義棟から通勤ラッシュ並みの人波があふれ出た。ごぼう天うどん260円、かつ丼400円という価格帯の学食は大混雑。それを素通りした学生は、隣のコンビニエンスストアへ。手に取るのは、清涼飲料水、パン、菓子、カップ麺など。ドリンクや軽食で済ませる学生も多いようだ。
直接聞いてみると、「毎日、夜はアイスだけ」「食器がない」「コンロが物置化している」。一人暮らしの法学部3年生男子は、
「学生になって、朝食は食べなくなりました。バイトがない日の夕飯は、魚の干物や肉を焼いて、ご飯を炊く。バイトがあると遅いので、コンビニで弁当やカップ麺を買うか、食べずに寝ます」。
「自炊塾」で実習を指導し、福岡市内の専門学校で学生の食事調査を続ける料理研究家・幾田淳子さんんによると、「朝・昼抜き」など不規則な食習慣はざら。それでも、10年前より、自分で作る学生が増えた実感はあるそうだ。
「4割くらいの学生が、何らかの手弁当を持ってきます。みそ汁が絶滅寸前だったり、主菜が炒めものオンリーだったり、内容に問題は多いですが、8年前から学校で食育が始まった成果が少し出ているのかもしれません」(幾田さん)
開講から約2カ月。自炊の様子はどうだろう。夕方、経済学部1年の野口裕介君(20)宅を訪ねた。
調理道具は、フライパンと片手鍋のみ。献立は、ご飯、みそ汁、焼き魚、白和え、ニンジンのナムル。
まず、炊飯器をセット。鍋には、すでにかつお節とイリコで出汁を取ってあった。フライパンでホウレンソウをゆがく。大きくてはみ出すが、「何とか押し込みました」。
ホウレンソウを白和えにすると、フライパンにクッキングシートを敷いた。「魚焼きグリルがないので、これで焼きます」。塩サバを焼く間に、みそ汁を調理。常備菜のナムルを冷蔵庫から取り出し、約40分で完成した。味見させてもらった白和えは、優しい味でおいしかった。
「レシピがなくても、先生の手順を思い返しながら作れるようになりました。片づけは面倒ですが、常備菜を覚えて、朝食の支度が楽になりました」(野口君)
入学直後は、実家の助言もあって、カップ麺や袋ラーメンを買いだめした。
「今なら何を買いだめする?」と尋ねると、「お米」と即答。「あと、豚のひき肉とみそを買えば、保存食の豚みそと、みそ汁でご飯が食べられますよね」
※AERA 2013年7月29日号