ひきこもりとなった人々の多くが、いま中年を迎えようとしている。そんな中年ひきこもりの子どもを持つ親たちに、今後必要になるのがマネープランの説明だ。
精神科医の斎藤環(たまき)さんは、全国におよそ100万人はいると見られるひきこもりのうち、40代半ばの年代が一定のボリュームゾーンを占めると言う。
「少なくとも10万人は超えるでしょう。若いときにひきこもった人が、社会復帰しないまま年を取っている。このまま行けば2030年には、60代の4分の1が単身者で、そのうちのかなりの部分をひきこもりの人が占める可能性があります」
京都府に住む70代の男性はこのほど、10年以上にわたってひきこもる42歳の次男と、はじめてお金の話をした。自分ががんと診断され、「遺産」という言葉を意識したからだ。
ローン完済の持ち家があり、貯蓄は1千万円弱。自立して暮らす長男夫婦には、「次男のために、遺産相続の権利は放棄してほしい」と伝えてある。親が死んでも、あと10年くらいは働かなくても大丈夫なこと。今すぐでなくても、月に3万円くらい、アルバイトで稼げるようになれば、かなり安心できること──預金通帳を見せながら、淡々と説明した。
「次男は、無言でうなずいただけでしたが、どこかホッとした様子でした。親が死んだら自分も死ぬしかない、と思いつめていたのかもしれません」
それからは、どことなく表情も明るくなったように感じる。ひきこもり仲間が集うデイケアにも出かけるようになった。
「家が裕福だとバレると、ますます働かなくなるから、とマネープランを計算しない家庭が多く、『家にはカネがないからな』と脅す家もあります。でも、それは本人を追いつめるだけ。自分が生きていくためにあといくら必要なのか、リアリティーのある危機感を持つことができれば、就労につなげていくこともできるのでは」(斎藤さん)
※AERA 2012年11月5日号